■タンポポとの出会い
柔らかい日差しの中で、その年初めてのタンポポを見つけると、春の歩みを実感します。しかし、「昨日もこの道を歩いたはずなのに」、と思うことはありませんか?植物の基本は、拡張収縮の動きにあります。その中でも、花は広がる傾向を強くもった器官です。花びらは大きく広がり、その色は周囲から際立ち、香りを広げ、花粉を飛ばすなど、さまざまな仕方で《広がる》のです。その広がりには、通常の植物学では取り上げない広がりもあります。つまり、私たちの意識の中にまで広がってきますし、昆虫の意識の中にも入り込んでいます。たとえて言うなら、昆虫にとっては、花が咲き始めると、暗闇に光が灯るようにそれが見えているのでしょう。そして、タンポポは開花を境に、「無視から注目」への変化が非常に大きな花と言ってもよいでしょう。
■「タンポポの葉を描けますか?」
私は、あちこちでこの質問をし、講座の参加者などに描いてもらいました。誰でも知っているタンポポですが、その葉の概形を描ける人は20人に一人くらいです。私たちの意識の中で、何が起きているかは明らかです。「タンポポの葉はギザギザ」と考え、それで納得してしまい、現象そのものからは離れてしまっているのです。しかし、現象から離れてしまったら、ゲーテ的自然科学は成り立ちません。出発点は常に、《現象そのもの》なのです。
■タンポポの特徴
茎は伸びず、葉はロゼット状に展開します。また、根は非常に深く、しかも丈夫です。花を支える花きょうの部分は空洞で、花を簡単に摘み取れるのに対し、根は大人が引っ張っても切れません。葉の形はギザギザですが、その先端は外側に向くのではなく、内側を向いています。葉の成長は、当然中心から離れる方向に伸びますが、形のしぐさには中心の方に戻ろうとする動きがみられます。
花は、小さな花の集合体です。よく見かけるくらいの大きさの普通のタンポポで、200から250の花が密集しています。日当たりが良く、健やかに成長したものでは600もの花が集まっていることもあるそうです。そして、一つ一つの花のユニットは、次のような形をしています。
画像は、富山県総合教育センターのサイトから
お借りしました。
花びらは細く、先に向かって伸びてはいますが、決して広がってはいません。ガクは細い毛状のものが密生し、これは植物体、あるいは将来の種子にしっかりと付いています。種子として風に舞うときには、《ワタゲ》になる部分です。本来、広がる傾向が強いおしべも、めしべの周囲に密集していて、押しとどめられたしぐさを見せます。形としてやや広がりを見せるのは、先が二つに分かれ、弧を描くように巻いているめしべの柱頭部分です。お借りしました。
■生育史
タンポポの種は4~6月くらいに大地に落ち、そこで発芽し根を伸ばします。タンポポの発芽の様子(先生のための教材画像サイト)
つまり、夏至前くらいから冬至に向かって、言い換えると、太陽の放射の力が日々弱っていく中で、上に伸びることはまったくなく、成長していきます。その後、冬至から春分にかけての時期にツボミを成熟させ、開花します。
■タンポポは収縮的植物
200の花が一点に集約されている様子、おしべがすべて軸の周りに集まっている様子、葉のギザギザが中心方向を向いている様子、上には伸びず、根が地中深くに述べている様子、あるいは茎のように見える花きょう部分から出るミルク状の液が非常に苦いこと、などを思い浮かべますと、タンポポが非常に収縮的な傾向を持つことがわかります。それでは、タンポポはいったい何を凝縮しているのでしょうか?春先のあちこちに、輝くように咲いているタンポポを思い浮かべれば、それが《光の凝縮》であることは、容易に感じ取れるのではないでしょうか。《光の凝縮》であることを示す事実を、私はまだあまり見つけてはいません。しかし、確信めいたものは感じています。いずれ、状況証拠をお伝えできたら、と思います。
■絵画プロセス
タンポポでは、まず世界に充ちる光から描きます。黄色で下塗りをしていくのです。花の部分を塗り残しつつ、そこに命の温かさ(赤)を加え、さらに水の要素を加えていきます。このようにして、3色をよく混ぜ、縦の画用紙の下2/3を重い大地にしていきます。その中心から葉が伸び、花が着き、場合によっては絵具をティッシュなどで吸い取り、ワタゲを描くこともできます。
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