2014年8月11日月曜日

ウマでは○○の発達が全体を支配している

■ウマの走り方

身近によく見る犬の走り方を振り返ってみましょう。犬は後脚で踏み切って、空中姿勢では身体が前後に伸びた状態になっています。
フリーの画像をお借りしました
さて、フランスの画家テオドール・ジェリコー(1791年9月26日-1824年1月26日)の「エプソムの競馬」という作品でウマの走る様子を描いていますし、これは犬の走り方と同じです。これを見て「何か変だ」と思われた人は鋭いです。
ジェリコー『エプソムの競馬』Wikiより

実際、ウマはこのような走り方はしません。空中に跳びあがる直前後の様子を見ますと、その違いが明確になります。
Eadweard Muybridgeの古典的写真集より

犬では、後脚で踏み切って跳ぶのに対し、ウマでは前脚(3つめの画像の左前脚)で踏み切っています。その結果、空中姿勢が犬では前後に伸び、ウマでは前後の脚をたたんだ状態になっています。逆に、脚が前後に開いているのは、着地している状態です。

▲ウマのさまざまな脚さばき

ウマの脚はとても器用で、さまざまな歩き方から走り方ができます。この点については、ウマとの接点が少ない日本人にはあまり馴染みがありませんが、

  • Walk:観光客を乗せた馬の歩み
  • Trot
  • Canter
  • Pace & Stepping Pace
  • Gallop:競馬の全速力

といったものがあります。
trot、canter、paceはなかなか見る機会がありません。ここではyoutubeで紹介しておきます。


こうしたものを見ますと、ウマの脚に非常に活き活きとした力が宿っていることを感じ取れるでしょう。

■脚と足

Ellenbergerより 

ウシやシカなどが偶蹄目で、蹄が中指と人差し指の二本あるのに対し、ウマは奇蹄目に属し、蹄は中指の一本しかありません。しかし、ご承知のように非常に速く走ることができます。ウマの骨格で、たとえば後ろ脚で、どこまでが脚でどこからが足かを確認すると、非常に興味深いでしょう。膝がかなり高い位置にあり、足首から中指の先までは、細い柱のようです。「ウマには足はない」、あるいは、「足が脚化している」というのが、現象の忠実な表現ではないでしょうか。
ここで一旦、走り方に話を戻します。
ウサギなどでは顕著ですが、犬やネコなどほとんどの動物で、前脚と後脚の若干の役割分担が見られます。餌を押さえたりする際には、前脚を使うのです。そして、走る際の踏切は後脚です。ところが、ウマではgallopする際には、前脚で踏み切って空中姿勢に移りました。ですから、「ウマでは前脚が後脚的、つまり本来の脚的になっている」と言うことができるでしょう。
このように見ますと、「ウマとは運動器官である後脚が支配的である動物」と言えるでしょう。このようにウマと《運動》は密接にかかわりますが、運動原則が動物全体を貫いたネコ科の動物とは様子が違います。あくまでも脚であり、胴体部はむしろ動きを失っています。背骨の一部は癒着すらしていて、それだからこそ、全速力でgallopするウマの背中に人が乗れるのです。

■運動器官の発達に関連する形態の変化

首から尻までの背骨の諸部分、つまり頸椎、胸椎、腰椎で最も運動的なのはどこでしょうか。あるいは、頭部で最も運動的な部分はどこになるでしょうか。これは、自分自身の身体を見ればすぐに分かります。動きやすさという点から見れば、頸椎>腰椎>胸椎ですし、頭部では下顎が最もよく動くことは明らかです。この点をウマの骨格で確認してみましょう。頸椎の発達は明らかですし、胸椎は癒着しています。下顎の骨も巨大です。脳の入る部分を想像していただくと、その巨大さが際立つはずです。
Ellenbergerより

■循環系、呼吸系、消化系

私たちの身体は少し走りますとすぐに反応します。最初に気づくのは心拍で、さらには呼吸も変化します。時間が経てばもちろん空腹も感じますが、走っている最中にはあまり感じません。また、感覚器官で運動にとって特に重要なのは視覚で、味覚、嗅覚、触覚などはあまり重要ではありません。
以下のデータ(『馬の科学』競争馬総合研究所=編、講談社ブルーバックス)を見れば、ウマにおいて心臓循環系、呼吸器系、視覚がいかに発達しているかは明らかでしょうし、消化器系の発達度も予想通りと言えるでしょう。
運動のために重要な感覚は、視覚です。

▲心臓の大きさ

種類 体重 心臓の重量 心臓/体重×0.1
ヒト 60(kg) 250(g) 0.42
サラブレッド 485 4688 0.97

▲心博

安静時 最高値 倍率
ウマ 30-35 220-240 6-8
ヒト 60-70 180-200 3

しかも、最高心博数に達するまでに20秒しかかかりません。

▲血液量

動物種 血液量(ml/kg)
サラブレッド 103.1-109.6
ヒト 63.8-97.0

▲脾臓

血液を脾臓に貯えていて、運動時にはそこから血球が放出されます。
動物種 脾臓 赤血球数
サラブレッド 2023 945(623-1300)
ヒト 100-115 450-500

▲消化器

動物種 小腸 大腸 体長との比
ウマ 22.0 7.0 9-13
ウシ 36.0 11.0 20-22
ヒツジ 21.0 7.0 2-29

ウマには胆嚢はありません。また、盲腸は長さが1m,容積が30リットルあります。胃が比較的小さいので、少しずつゆっくりと草を食べます。しかし、いつも食べていろといった状態が続きます。しかも、若いやわらかい草を好んで食べ、丈の高い草を根もとまでは食べません。ウマでは、他の動物に比較して、便秘が比較的多いそうです。

▲眼球の大きさ

奥行き 縦径 横径 重量
ウマ 44mm 48mm 48mm 100g
ウシ 35 41 42 65
ヒト 24 24 24 74
































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