写真のような板を使って、子どもたちに九九の糸かけを体験させることができます。そして、このように実際に手を動かした後で、それをまとめることができます。
■九九の糸かけの結果
その0から始めて、九九の各段を周ると次のような図になります。このことは、シュタイナー学校について書かれた子安美知子著『ミュンヘンの小学生』に紹介されています。もちろん、九九の格段の形がそれぞれに美しいですから、それを知るだけでも、子供たちにとって喜びになります。
また、1-9、2-8、3-7、4-6がそれぞれ対称になっていることもすぐにわかります。形が同じで、周る向きがちょうど反対になっているのです。
これを図に表すと、次のようになります。
すべての段の形を経験した後で、私は黒板に小さな円を8つ描き、それぞれの段について、形を子供に記入させます。
■『ミュンヘンの小学生』には書かれていない重要な発展
以下の内容は、私、森章吾による創案です。これはドイツのシュタイナー学校の授業で取り上げられているかは不明です。しかし、数の美しさの体験という意味では、非常に重要かつ効果的だと思っています。
そして、ここで大切な問いをします。
ここには5の段はないけれど、5の段の形は簡単だから、君たちはみんな知っているね。
そう、まっすぐな線だ。
その5段も含めて、みんなはこの中でどれが一番美しいと思う?すると、答えはまちまちです。
シンプルな星型の4や6を美しいという子もいれば、複雑な形の3や7が美しいという子もいます。
そこで、やや挑発的に、尋ねます。
5の段が美しいと思う子はいるかな?そして、しばらく間を置いて、
先生は5の段が一番美しいと思う。と言います。
そして、おもむろに全体を囲む大きな円を描き、それを上下に二等分します。
そして、5の段の直線が鏡のように、対称の軸になっていることを説明します。
私は、2年生の終わり頃にこの話をしました。3つの学年で3回この話をしました。子供たちは言葉を失い、感動していることがありありとうかがえました。
九九では、それぞれの段に秩序があり、それが美しい形となって現れました。ところが、それだけではないのです。九九全体が一つの秩序を持ち、その中で最も単純な形を示す5の段が、非常に重要な働きをするのです。
■さらなる発展
しかしながら、この形は九九の一の位だけに注目した結果です。十の位も含めて考えますと、違った結果になります。たとえば、6の段ですと、次のようになります。ここには取り上げませんが、4の段では星型の広がり方がゆるやかです。つまり、4の段と6の段は完全に対称ではないのです。また、各段にはそれぞれの個性があるのです。
100までの数をらせん状にプロットした用紙をつくりました。これを出力して点を九九の格段にしたがって線で結んでいくと、それぞれの段の個性が現れた図形になります。上の図のらせんは一定の差で広がるため、10-20間と20-30間の幅が同じです。しかし、次のものは10-20間、20-30間と数が大きくになるにしたがって一定の割合で間隔が広がっていきます。
コピー機にかけると、画面が若干歪み、出来上がった図の精度が悪くなります。プリンタで出力する方が望ましいです。( 商用での大量使用はご遠慮ください。)
九九のらせん用紙のダウンロード
九九のらせん用紙とは、こんな感じです。
■ 数学・算数の美しさを感じさせる教材の紹介
以下のページに「数学・算数の美しさ」の関連項目リストがあります。
■九九の糸かけボードの制作
子どもたちは、このボードを喜んで作ります。制作しやすいように準備をします。1. 所定の位置にガイド用の穴(1.5~2.0mm径)を開けた板を用意する。
2. まず、一番上の位置に数字の 0 を記入させる。…ネジを入れた後では数字を書きにくく、単に「数字を書いて」と指示すると、上の位置に 1 を書く子どもが続出する。
3. 1~9までの数字を記入させる。
4. ネジをガイドの穴に入れ、ドライバーで固定していく。
5. 0 の所に糸を結びつける
これだけの作業ですが、子どもにとっては必ずしも容易ではありません。
なぜ板を使うか
丸太のスライスを使いますと木目が見え、よりナチュラルですので、美しくは見えます。しかし、私(私たち)はシナ合板(9mm厚)を使っています。最も大きな理由は、《本質》を中心に据えたいからです。非常に極端な例を挙げます。もし仮にこのボードが純金でできていて、ピンには宝石がちりばめてあるとしましょう。それを使って糸かけを行った子どもが、成長してから思い出す際に「黄金と宝石は素晴らしかった」という点を思い出すとしたら、これは教材としては失敗だからです。学ぶ際の物質的状況ではなく、精神的・思考的内容の美しさを思い出せるのが理想です。
数学が目指すのは、《見える美しさ》ではなく、《目に見えない美しさ》です。その意味では数字の描かれた平面の方が望ましいと考えています。たとえば、キャラクター入りのノートなどは「かわいい」というよりは「思考の邪魔」です。なぜなら、思考が入り込む世界では、そうした余計なものはノイズでしかないからです。
このボードには数字を必ず書きこみますが、板が平らですと、その作業も容易です。
注意点:ネジの形状
釘は使わず、木ねじを使っています。子どもにとっては、釘を真っ直ぐに打つのはかなり難しいからです。木ねじですと、ガイドの穴に沿って問題なくねじ込めます。使うネジの形状には注意しています。かけた糸がはずれにくいようにです。 私たちが使っているのは、一番左のタイプです。
中央の2つは、頭の部分の形状で、糸をかけたときにはずれやすくなってしまいます。形状としては、両端のものが適切です。ただし、左端の釘ですと頭が小さいので、やはりはずれやすくなります。
右端のネジを使い、下図のような状態ですと、糸かけの際にはずれにくくなります。
(2001年に個人HPに公開していた内容を改変して再掲)
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