2年生向けのお話として、ドイツでは定番です。日本の子どもたちも、喜んで聴いてくれます。(15分強)
以下の内容は、二つの問題があります。
- 著作権(誰かは不明)に発表の許諾を受けていません。(この記事で問題が生じた場合、責任は取ります)。
- 翻訳は、「日本語に置き換えた」というレベルで、そのまま子どもに語り聞かせるクオリティはありません。表現は各自、工夫してください。
★ 聖クリストフォルスのお話(伝承からヤーコブ・シュトライト作)
『聖クリストフォルス』、コンラート・ヴィッツ、1435年頃
むかしあるところにひとりの大男がおりました. たいそうな力持ちで,大きなモミの木を根っこごと引き抜いてしまうほどでした. 大男の名はオフォルスといいました. そして,すでにあちこちの農家で仕事を終えていました. でも,どこの農家にも長居はしませんでした. なぜなら,どこでもすぐに仕事を終えてしまって,やることがなくなると退屈してしまうからでした. そして,「世界中で一番力のあるご主人を探して,その方にお使えしよう. その方ならきっと私の力を全部使ってくれるだろうから」,と独り言を言いました. こうして大男のオフォルスは村から村へ,町から町へと旅をして,一番強いご主人は誰かと尋ねてまわりました.
とうとうあるお城にやってきました. そして,ある職人が,この王様こそ世界広しと言えども一番強いお方だと言いました. オフォルスはさっそく王様の御前に出て,ぜひとも使ってくださるように頼みました. 王様は,力持ちの大男を見るなり, 「わしがお前をこれまでにないほどに役立ててやろう. お前は,わしの兵隊の中で一番の兵{つわもの}になるに違いない. お前さえいれば,どんな戦いも必ず勝てるだろう」,と言いました.
隣の国の王様が攻めてきて,町を一つ焼き払い,征服したところだったので,王様はちょうどその日に国中の兵隊を御前に集めたところなのです. そして,強い軍勢を送ろうとしていたのです. ですから,刀鍛冶に命じて大急ぎでオフォルスのための大きな刀を打たせたのです. お城にあった刀はどれもオフォルスには小さすぎたからです. 次の日,軍勢は戦いに向かいましたが,もちろん大男が先頭です.
そして,その翌日にはもう飛脚がお城に戻ってきました. 「門を飾れ,塔を飾れ.我々は勝ったぞ. オフォルスの戦いぶりはものすごかった. 他の者はただただ見ているばかりだった. 大きな刀を一振りすると敵は森の中にすっとび,山の中に砕け散った. 略奪者の王様は討ち取られた.」
すぐに街中の鐘楼の鐘が打つ鳴らされ,お城の扉や階段は花で飾られました. 王様は,闘いの勝利を祝うために広間に宴を用意させました. そして,竪琴弾きが呼ばれ,剣の舞いも用意されました.
その晩はたくさんのろうそくが赤々と燃え,オフォルスの席は王様のすぐ隣でした. 竪琴弾きは,琴の音に合せて歌を歌いましたが,その歌の中には悪魔の名前が出てきました. そのとき王様は,本当に目立たないしぐさでしたが,指で額に十字を切りました. オフォルスはそれを見て「王様は変な事をしている」と思いました. その歌は終わり,客たちは楽しくお酒を飲んでいました.
歌は気に入ったか,と王様がオフォルスに尋ねると,「王様,一つだけ不思議な事がありました.王様はなぜ突然,額に何かの印を描いたのですか」と逆に問い返しました. 「わしは悪魔の名前を耳にすると,必ずそうするのじゃ. 奴はこの世では大きな力を持っているからな」. するとオフォルスは続けて,「悪魔はあなたよりも強いのですか」と聞きました. すると王様は,「わしは一つの国を治めているが,悪魔の力は世界中におよんでいる」と答えました.
オフォルスは悪魔のことはこれまでまったく聞いたことがなかったので,これも王様の一人だろうと考えました. 「この王様よりも力のあるものがいるんだったら,ここから出て行き探さなくては. 私は一番強い王様にお仕えしたいのだから」.
次の日,オフォルスは別れを告げ,王様も彼を引き止めるのはいやだったので,彼は再び諸国を放浪し始めました. 道の途中のあちこちで,悪魔がどこに住んでいるかを尋ねました. けれども,誰もはっきりとした事は言えませんでした. 彼がそう尋ねると,ほとんどの人がその問いに驚いたのですが,それでかえってオフォルスはその知らない王様を仰ぎ見るようになったのです.
大男が暗い森の中に入っていくと,後ろから風変わりな旅人が付いてきました. 緑がかった服を着ていて,短いあごひげの先の方は尖っていて,帽子には黒い羽飾りがついていました. オフォルスはすぐに尋ねました. 「旅人よ,あんた,どこにいけば悪魔に会えるか知っているかい」. 「あんたの隣だよ.私こそその悪魔だ」,と緑色の男は言いました. 「お前さんが世界中で力を持っているというのは本当かい」. 「その通りだ」,と悪魔が答えました. 「それじゃ聞きたいんだけど,私をおまえの家来にしてくれるかい.私に何かやらせてくれるかい」と大男は尋ねました. オフォルスは悪魔が悪い事をするというのを知らなかったのです. 「仕事はあるぞ,わしについてこい」,悪魔は合図を出し,前に出て藪を斜めに突っ切っていきました.
しばらくいくと,緑の服をまとった男は,大きなモミの樹の前で立ち止まり,「これを引っこ抜け」と命令しました. オフォルスはそれを地面から一気に引き抜きました. そして,枝をはらいました. 悪魔がまた合図をすると,オフォルスは大きな樹を肩にかついでついていきました. やがて森を抜けると,男たちが何週間もかかって礼拝堂を建てているところに出ました. もう屋根の垂木は組みあがっていて,わざとかんなくずをひらひらとつけたモミの樹もすでに立てられていました. お祝いの夜だったのです. 男たちはその場を離れました. 次の日には屋根に瓦をふくことになっていたのです.
「あれを思いっきり叩き壊せ」と叫びながら,悪魔はその建物を指差しました. 太いモミの樹の幹が屋根の木をこっぱみじんにすると,壁もすぐに粉々に打ち砕かれました.
悪魔は,「初仕事は上出来だ」と誉め,にやりと笑いました.
オフォルスは新しい主人の命令に逆らうことはできませんでした. そして,さらについていったのです.
次の日,男たちが礼拝堂の仕事場にやってくると,そこは瓦礫の山でした. 一人が「これは悪魔の仕業だ」と叫びました. 「もう一度建てる前に,道に十字架を立てておこう.そうしたら悪魔も近寄れないだろうから」. そして,すぐに礼拝堂に続く道に木の十字架が立てられました. そして仕事にとりかかるべく,歌を歌い,瓦礫をまた元のように積み重ね始めました.
しばらく時がたち,その聖なる礼拝堂に屋根がかけられた頃,悪魔が再びオフォルスを連れてやってきました. 大男は今度もモミの樹の幹をかついでいます. 悪魔が先をいきます. そして,十字架のところにさしかかりますと,ぎくりと身震いし,横に跳びのき,そのまわりを大きく回って行きました. 「額に十字をきる.道の十字架.-悪魔,お前はなぜ跳びのくのだ」. 「つべこべ言わず,屋根を叩き壊せ.もう瓦までふいてある」. 「この木の意味をお前が教えてくれるまでは,一打ちだってするものか」 「あの名前をおれに言わせないでくれ」と悪魔が言いました. 「悪魔が恐がるような名前というのだから,そんなに危ないのか」,とオフォルスは尋ねました. 「お前より強いご主人がいるというのか」.
今度は悪魔がオフォルスの近くに寄って,「地上でも天でも力を持っているのが一人だけいる. これはもうこれくらいにして,いいからこっちへ来てさっさと叩き壊せ」. しかし,オフォルスは答えました. 「一つの国だけでなく,世界だけでなく,天にも力をお持ちの方がいらっしゃると言うのなら,その方こそ一番偉大な王様だ. 私はその方にだけお仕えしたい」. こう言いながら大男が木の幹を地面に放り出しますと,それはちょうど悪魔の足の上に落ちました. そして,礼拝堂に向かうと,悪魔は脅えながら足を引きずってそこから逃げ去りました.
大工さんたちが朝早くやって来ました. するとそこには,大きな幹が粉々に砕け,塀のところには大男が一人寝ていました. 大男は人の声で目を覚まし,驚いている男たちの前に出て来ました. 彼らが恐がっている事など意に介さず,木の十字架を指差して尋ねました. 「このしるしを持っている王様というのはどんな方だい」. 大工さんたちは「俺たちは家を建てるのが仕事だから,そいつはよくわからねぇ. でも,お日さまが上ってくる方に1時間くらい行ってみな. 川があって,その上の岩の洞穴に隠者の爺さんが住んでいるから,そこで聞いてみな. 爺さんなら何か知ってるかもしれん」.
オフォルスが道を進んでいくと,男たちが説明してくれたものはみなありました. そして,川から岩によじ登っていきますと,洞窟に続く狭い道がありました. 彼の庵に入って来た大男を見て,隠者は驚きました. 「何をしりたいのじゃ」. 「爺様,教えてくれ.どこへいったら,地上でも天でも力をお持ちの王様に会えるかい.」,とオフォルスは口を開きました. 「その方と出会うには二つの方法がある」,老人が答えました. 「第一の方法は,まず,わしのように静かな場所を探しなさい.食べ物はあまり食べないで,聖なる書物の物語を読むのじゃ」. 「そんなこと,俺にはできねぇ」とオフォルスは答えました. 「俺は字も読めねぇし,じっとしているのも好きじゃねぇ.俺の腕を見てくれ,こいつは何かをやりたがっているんだ」.
隠者はうなずき,話を進めました. 「それでは第2の方法を聞くがいい.すべての力を出し尽くして,人々に仕えなさい. 下に大きな川があるのが見えるじゃろ.橋がかかっておらん. それでも,たくさんの旅人が毎日,川をわたろうとしている. さあ,降りていって,川岸に小屋を建て,お前の力強い肩に人々を背負って,川を渡らせてやりなさい」.
「それこそ,俺の仕事だ」,と大声を出し,隠者に礼を言って,下に戻って行きました. 川岸にはすぐに小屋が建ち,そのときから大男が旅人をいつでも川をわたしてくれました. それでも,お金をもらう事など,まったく考えもしませんでした. そして,パンや果物をもらうと,それに礼を言うのでした.
そうして1年が過ぎました. オフォルスは隠者のところへ上って行き,「偉大な王様は,おいでになりませんでした.」と言いますと,老人は「もう1年,旅人を渡しなさい. そうしたら,やがておいでになるでしょう」,と答えました. それで,心の正しい大男は,再び川岸に戻りました. こうして,毎年毎年,大男は隠者のところに上って行きました. けれども,彼の主人となってくれる王様は現れませんでした. 老人の言いつけにしたがって,大男はもう7回も川岸に下って行きました. それでおオフォルスは,不平はいいませんでした.
荒れ狂うような嵐の夜,オフォルスは小屋の中で深い眠りについていました. ところが,突然目覚めました. 向こう岸で誰かが呼んでいる声をはっきりと聞いたのです. 彼は起き上がり,頑丈な杖を持って,荒れ狂う流を渡り始めました. しかし,向こう岸について見ると,そこには誰もいませんでした. ただ,風がものすごい勢いで木々を鳴らしているだけでした. 「眠っていて,風が鳴る音を聞いたのだろうか」,そう思って,大男は小屋に帰ってまた床につきました.
しかし,再び眠りに落ちるか落ちないかのときに,彼はびっくりして目を覚ましました. 子供が呼ぶ声がはっきりと聞こえたのです. オフォルスはもう一度,川を渡り始めました. 波は前ほどではなく,風も少しおさまっていました. しかし向こう岸に渡って見ると,どんなに目をこらしても,誰もいませんでした. --- 闇に向かって呼んでみました. けれども何の返事もありません. 「変だな,確かに誰かが呼ぶのが聞こえたのに」,とひげの中でつぶやきました. でも,小屋に戻るしかありませんでした.
3回目に目を覚ましたときには,風も波もおさまっていました. そして,「オフォルス,川を渡してください」という銀の鈴を鳴らすような声が聞こえました. 小屋から出て見ると,向こう岸から光り輝いてくるものが見えました. そして,その光の中に子供が立っていて,オフォルスを待っているのでした. オフォルスが川を渡って行きますと,かわいらしい姿が光に包まれているのがはっきりと見えました. 川を渡ると,彼はその不思議な子供の前で身をかがめ,大切にその子を肩の上に載せました. 川を渡って帰ろうとしますと,子供が肩の上でだんだん重くなって行きました. そして,一歩進むたびに深く膝を曲げなくてはなりませんでした. 風や波も再び激しくなって行きました. 高い波が押し寄せ,彼の服やひげを濡らしました. 川の真ん中に来たときに,とうとう彼は膝を折り,水に沈みました. まるで地球全部が肩の上に乗っているようでした. もう溺れてしまうと思って,頭を上にあげ,「子供よ,お前はなんと重たいのだ」と弱気になって言いました. すると,肩の上から輝くような声が聞こえました. 「オフォルス,お前は地球より大きな物を運んでいる. お前が今,肩に載せているのは,その地球を創った者なのだ」. 彼が仰ぎ見ますと,彼の上には高貴な光の姿が見えました. その顔はまるで太陽のように輝き,頭の周りには星々が冠のように輝いていました. それは,主キリストでした. 「お前は7年間,私を待ち続け,人々に誠実に仕えました. だらか,お前に私の名前を授けよう. これからは,クリスト・オフォルスと名乗るがいい. そして,小屋の脇にお前の杖を立てるがいい. その干からびた木から緑の葉が出て来たら,お前は私の元にくることになるだろう」.
光は消え,肩は再び軽くなり,星が前と同じように輝いていました. クリスト・オフォルスは立ち上がり,小屋に向かい,杖を大地深くさして立てました.
3日の後,旅人が何回も小屋の中の大男を呼んでみましたが,無駄でした. 小屋からは誰も出て来ませんし,背負って川を渡してもくれません. 小屋の扉のところに来てみますと,大地にさした大男の杖がありました. そして,そこには幾重にも緑の葉が繁っていました. 大声で彼を呼んでみましたが,出て来ませんでした. 小屋の中には,命を失った身体だけが横たわっていました.
この知らせを聞いて,昼も夜も,どんな天気でも彼が渡してあげたたくさんの人が,遠くからも近くからもやって来て,彼の死を悼みました. 隠者のところへも知らせの者がむかい,見て来た事を話しました. すると老人はうなずいて,こう言いました. 「大男を墓に葬ってやりなさい. クリスト・オフォルスは最も偉大な王様に出会う事ができた. わしはまだその方を待たなくてはならない」.
ヤーコブ・シュトライト作(森 章吾下訳1998)
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