エルンスト・シューベルト編集(Ernst Schuberth)
目次
要約
まえがきルイ・ロッヒャー=エルンストの『算術と代数』といったやや専門的な本を学ぶと,算数の授業がやりやすくなる.
1年生
「ひとまとまり」の概念.リズム.記憶.四則の数学的背景.
2年生
数に対する感情的なつながり(48と47の質の違い).
3年生
「家づくり」と関連して単位.リズムの中での数の複雑な絡み合い.
4年生
分数の導入(単位分数から).さまざまな幾何学図形の観察.ごく初歩的な空間感覚の紹介.
5年生
分数計算を習熟.定規とコンパス.直角二等辺三角形においてのピタゴラスの定理.
6年生
パーセント,比例,利子計算.ピタゴラスの定理.代数の準備.
7年生
代数.開閉計算.負の数.
8年生
方程式,不等式.面積,体積計算.曲線.プラトン立体.
まえがき
ここではシュタイナー学校の低・中学年のクラスで,数学の授業をどのように展開するかを提案したいと思います. しかし,これはシュトックマイアー(E.A.K.Stockmeyer)編集の『ルドルフ・シュタイナーのカリキュラム提言集』の代わりにはなりません.むしろそれを正確に知っていることが前提になっています.ただ,シュトックマイアーでは簡単にしか触れられていない事柄も多いので,その補足も必要になります. こうした問題点が数学教師のサークルで話題になることも多く,再三検討されてきました.数学の授業でも,個々の教師が自らの自由な責任において授業を作り上げていくのは当然のことです. しかし,まさに授業法を自由に構成していくために,その教科のしっかりとした基礎が必要です.その基礎づくりに,ルイ・ロッヒャー=エルンストの『算術と代数』が助けになります. その中には,教師の目から見て子供には難しすぎると思える内容も多いでしょう.しかし,教師がそれを確実に身につけているなら,この小冊子で述べている学年毎の教材も無理なく教えられます.
しかし,『算術と代数』は教師用に書かれたのではなく,スイスの技術学校の学生のために書かれた点を考慮しなくてはならないでしょう. ですから,教師は重要な部分を選んで読む必要があるでしょうし,また,練習問題が多くが学校用としては要求が高すぎる点を考えに入れておいてください.取り付きやすくするために,以下では必要に応じて単独の章,場合によっては特定のページを参照するようにしてあります. 実際に教育に携わる方の多くは,位置づけ(オリエンテーション)のために,参照された章の前後も読みたくなるでしょう.
『算術と代数』は授業内容については参考になりますが,教授法的なことは書かれていません. これについてはルドルフ・シュタイナーの諸講演,ヘルマン・フォン・バラヴァッレ,エルンスト・ビンデル,エルンスト・シューベルトなどの著作や論文,あるいはその他多くの提言などがあります.現段階では,人間学,教授法,専門教科の基礎などを包括した著作はありません.
この『カリキュラムの展望』もそうした課題を満たすことはできません.
フォルメン線描についても書きましたが,この小冊子では後の数学の授業と関係のある幾何学的な側面だけを強調しています. フォルメン線描の構成そのものについてはクラーニッヒ等著,『フォルメン線描』(拙訳)等を参考にしてください.
数学の授業に関するその他の著作は逐次紹介してあります. また,クラス担任にとって重要な文献は最後にまとめておきました.
1年生
ある意味では集合概念に相当するひとまとまりという概念から出発し,数概念をいくつか導入します. (ルドルフ・シュタイナー,『人間本性の把握から生まれる教育芸術』第5講.こうしたことと並行して(例えば〈リズムの時間〉に),意志的・リズム的なものを育てていきます. リズムに乗って時間の流れを規則正しく数で分割するのです.
1,2, 3,・・・・
算数の苦手な子でも,こうした練習で多少改善されます. しかし,数を単にリズムとして捉えるのでは不十分です. 毎時間,リズミカルな身体の動きからしだいに個々の数字の意識的な把握へと移行させ,身体をしだいに落ち着かせます.これは,常に基本原則です. 〈数え〉は合唱としても,一人ひとりでも練習します. まずは20まで,そしてだいたい100までです. 決まった限界はありません. リズミカルな数えの前練習として,ふさわしいリズミカルな詩句をやってもよいでしょう.
〈数当て〉の練習はとても好まれ,多くのヴァリエーションが可能です. その際,さまざまな感覚(聴覚,視覚,触覚,等々)を通して数を当てさせます. 指当てや足指当ては楽しいものです.計算ができるためには,子供は絶対に自分自身の身体の末端まで,内的に触れることができなくてはなりません.
記憶力を育てるために,1年生の終り頃に小さな1足す1と九九の最初の段を教えるとよいでしょう.ここではリズム的記憶だけでなく,時間的記憶も養います.
(Rudolf Steiner, Die Weltgeschichte in anthroposophischer Beleuchtung. GA.233, 1.Vortrag).
- 分析的・総合的思考を考慮すること
- 記憶力を育成すること
- 気質に沿った練習を取り入れること
- 専門知識として,教師は諸演算の有機的な結び付きの概要を把握していなくてはなりません. また,10への繰り上がりの問題は一通り考えておく必要があります.できれば位取りのシステム(n進法など)も知っていた方がよいでしょう. 10進法はと,数字との関わり上の完全に習慣的な問題です.数の本性とは関係がありません.
幾何学の授業はフォルメン線描とオイリュトミーで準備します. 教育的な観点は他にもいろいろありますが,教師がやや専門的な興味を持つなら,平面上の曲線についての諸法則も重要かもしれません.そのいくつかはクラーニッヒ等,『フォルメン線描』の第7章にあります.
文献
ルイ・ロッヒャー=エルンスト,『算術と代数』の〈まえがき〉と〈序論〉を薦めます. これで算術の美に対する感覚を目覚めさせられるかもしれません.オリエンテーションとしてはn進数について書かれた第4章と第12章があります.その他には,
- ルイ・ロッヒャー=エルンスト,〈芸術と宗教に対する数学の関係〉.
- エルンスト・ビンデル,『算数』.
- ヘルマン・フォン・バラヴァッレ,『シュタイナー学校での算数の授業』.
- エルンスト・シューベルト,『シュタイナー学校の算数の時間』.
- ルドルフ・シュタイナー,全集番号(GA),34,294,295,301,303,305,306,307,310,311.
2年生
2年生では,小さな九九を確実に覚えているのが望ましいでしょう. 九九の列を単にリズムに乗って言えるだけではなく,「7かける6はいくつ」,「42は何かける何」,という2種類の問いに確実に答えられることが重要です. 2の列,3の列といった数列を扱うことで,初歩的な数字同士の関係を導入できます. 「3の列と4の列はいつ一緒に声を出しますか」. リズミカルな練習では,数字の個性に対して感情が生まれてきます. 例えば48は豊かな数,〈王者の数〉です. なぜなら,たくさんの約数を含み,それらを従えているからです. 47は〈乞食の数〉(素数)です. 数の表現の仕方は,〈乞食の数〉などという言い方の他にも,ファンタジーを働かせればたくさんあります.とりあえずは100までの数字で計算を練習します. その際,計算物語などによって,具体的な状況と結びつけた方が望ましいでしょう.数えそのものに関しては,もちろん上限を設けません. これまでに練習してきた分析的・総合的な演算を全てきちんと書きとめて,確実なものにします.フォルメン線描では上下対称を練習します. それに伴って三角形,四角形,円,楕円といった幾何学の基本図形が出てきます.
文献
数のリズムについての専門的な背景は『算術と代数』の33章,特に264ページ以降にあります.しかし,記述の仕方は小学校レベルとはかけ離れています. ルイ・ロッヒャー=エルンストの小論,『霊界の芸術作品としての自然数列』には,素晴らしい内容がいくつか書かれています.3年生
3年生では〈家作り〉〈畑作り〉のエポックで,授業に生活に根づいた実際的な要素が入ってきます. また,m,kg,などの単位を扱いながら簡単な量計算に入ります. 〈測定〉と〈分割〉が量によって特に見えやすくなります.6m/3m =2 …測定
6m/2 = 3m …分割
筆算に関しては,最低でも加法と減法を扱います. このとき,位取りが本質的な意味を持ちます.
また,大きな九九を学びます. 他には,2乗数などの数列を憶えて身につけてしまうこともできます. 計算問題では,数の持つ素晴らしい関係が現れて来るように,いつでも工夫するとよいでしょう.それには,ルイ・ロッヒャー=エルンストが『算術と代数』の序論が参考になります. 後で取り扱う領域から先取りするのです.例えば,10×10, 9×11, 8×12, 7×13, 等々 といった一連の問題では,掛け合わせる数の和は20で一定ですが,積は小さくなっていきます. この一連の結果にはどのような法則が隠れているでしょうか. 能力のある子供は,こうした一連の問題に喜びをもって熱心に取り組みます.
リズム数学には,複数のリズムが同時に鳴ったり,それらを結びつけたりすることが含まれます. これを利用して,約数・倍数の関係に関連した数の個性を導き,また深めます.例を挙げましょう. 4のリズムと6のリズムがあります. これらはまず,12のリズムで同時に鳴ります. また,2のリズムで結びつけられます. 2のリズムの中では両方のリズムを共に数えられます. このとき 4×6 = 12×2 が成り立ちます.(4と6に対し最少公倍数12で最大公約数2です.4×6と12×2とは同じになり,ここに一つの調和が生まれます.)
フォルメン線描では複雑な対称を練習できます. ルドルフ・シュタイナーは線描を扱う中で〈自由な対称〉というものを提案しています. 教師の専門知識として,さまざまな対称を知っていた方がよいでしょう.(鏡像(上下対称),多対称軸,回転対称,場合によっては,円における対称,:線・点対称). しかし,これらはまだ,全てを芸術的に,また直接のフォルム体験を通して描いていきます.
文献
進数系の構造については『算術と代数』の第4章を参考してください. そこには10進法以外のシステムも出てきますが,これはまだ授業では扱いません. しかし,教師はそうした背景を理解していた方が望ましいでしょう. 42ページ以降には筆算による掛け算が少しだけ取り扱われています. 〈測定〉と〈分割〉は16章にも詳しく書かれています.量の等式が第29章にいくらか書かれています. 量を代数的に扱うのはまだ早いでしょう. Multiplexというカード遊びでも数の関係を学べます.要約
初めの3年間は,ある観点からすれば,ひとつのまとまりと見ることができます. これらの学年では,具体的な状況,あるいは具体的に設定された状況で自然数を取り扱います.一方では総数を決め,その総数から計算します. もう一方では,数の関係や数のリズムについて考えます. こうすることで,像的要素と音楽的要素の間を行き来できます.計算は最低限,1000くらいまでできるようにします. また同時に,3年生の終わりくらいまでに,100あるいは120までの数字で,個々の数字の個性を見るようにするとよいでしょう.リズミカルな練習で,多くのものをまだ動きによって支えてやることができます. 〈ルビコン川〉までは生得的に数学が苦手な子も,クラスの仲間と一緒に上手に課題をこなしていかれます.幾何学はフォルメン線描の枠内で芸術的に育ててやります. 一方では幾何学的な基礎図形を知り,もう一方では,その教育的な作用も含めて,対称感覚を育てていきます.
4年生
〈ルビコン川〉を渡った後の算数の授業では,分数計算が新しく入ってきますし,これは重要です. このとき,多くの意味で1年生の最初の時を繰り返すことができます.全体から始めて部分が作られます. 1年生の時と違うのは,最初にあった全体とできてきた部分との関係を見る点です. ここから単位分数の概念が生まれてきます. 分数を幾何学的に目に見えるようにする場合,いつも決まった1つの像だけを用いないことです. ケーキや円ばかりでは不足です. 4分の1は三角形でも表せるのですから.単位分数を教えたら,分母の同じ分数の加減を行ないます. 約分やその逆でを利用して,まず1/2 と 1/3 といった〈不響〉の分数を足します.3年生の時のリズミカルな数の練習をこうした発展に応用できます. 2のリズムと3のリズムは6のリズムで同時に鳴ります.1/2と 1/3を加える時には6分の1に変えます. 約分は大きなまとまり(分母)からより小さなまとまりに移行することですし,1/2を 2/4変えるのは約分の逆ですが,それもリズムで示すことができます.
〈測定〉と〈分割〉は,ここで更に大きな意味を持ってきます. 量の〈分割〉では分数の加減が関係し,〈測定〉では分数の乗除が関係してきます.
実際に2つ以上の数をまとめるやりかたで小数を導入します. その際,リットル,メートルといった量計算を拡張し先へ進められます.これまで扱っていませんでしたが,筆算のやり方を教え確実にしておきます.
幾何では図形の記述がつけ加わります(記述的幾何学). 三角形,四角形,円,楕円などを,完全に線描的に描き,それを見ながらいろいろ判断してそれらを特徴づけていきます.辺,角,対称といった概念を,後に出てくる証明や定義と結び付けるのではなく,直接体験を記述する時の助けとして使います.
ルドルフ・シュタイナーは空間表象の育成を重視しています. 例として,円盤の影が平面上で楕円になることを挙げています. 空間幾何学を本格的に行なわなくても,授業での話や例示(デモンストレーション)で簡単な空間関係についての思考を目覚めさせてやることができます.
文献
『算術と代数』では分数計算を25,26章で扱っています.学校では代数的な書き方はまだ使いません. 法則を導きだし,言葉によって定式化し,記憶に留めます.教師の専門としては,通常の分数と小数との関係をしっかり理解しておいた方がよいでしょうし,分数演算の導入を基礎から勉強しておいた方がよいでしょう. 26章では分数と比の数との関係が丁寧に述べられています. GA.301の第14講には,分数計算についてのルドルフ・シュタイナーの重要なコメントがいくつかあります.
5年生
4年生で導入したことを先に進めます. その際,達成目標は次のようになります.- 分数を小数に変換し,またその逆もできること.
- 分母分子を約数に分解し,複雑な分数を約分できること.
- 複雑な分数同士で,共通分母を手順にしたがって,やり方を考え込まずに計算でき,足し算引き算ができること.
- あらゆる難度で分数計算が応用できること.
簡単な比例算(12:4 = x:5)も始めるのが望ましいでしょう. その際に,例えば量が増えれば価格も増す,といった相互関係に対する感情を育てることに重きを置きます.「まず見積もって,それから計算する」というやり方をしますと,数と実際に取り組む時により確実になります.
幾何学では正確な形に移っていきます. その際に,図形を流動的な動きの中で捉えるとよいでしょう.
定規とコンパスを用いた簡単な作図は5年生の最後に導入しますが,これには子供たちは熱心に取り組みます. 幾何学の最高点としては,ピタゴラスの定理を直角二等辺三角形という特殊な場合で取り上げられるとよいでしょう.
幾何学は,全体として〈手作業的〉な特徴があるとよいでしょう. 例えば,古代エジプト人がピラミッドの平面を描く時に用いた〈ピタゴラスのひも〉の話もできます.また,三角形を切り取ったり折ったりもできます.
文献
教師は教材をより広い関連から見た方がよいでしょう. その観点からすると,『算術と代数』の4年生のところで挙げたものの他に,第29,30章の初めの部分も読んでおくとよいでしょう.分数計算については Dr.Walter Kraul先生(ミュンヘン)が練習問題を出しています. 幾何学の導入に関しては素晴らしい文献がたくさんあります.例えば,Alexander Strakosch, Geometrie durch u"bende Anschauung. Gerhard Ott, Geometrie fu"r Klassenlehler der 6. 7. und 8. Klasse.また,幾何学の全体像をつかむには,Stockmeyerの『ルドルフ・シュタイナーの教案』を参照してください.
6年生
6年生からは,授業構成も授業方法も新しい局面に入ります. 全く違った風に子供の目を外界に向けさせます. 例えば,お金,クレジット,社会三層構造の何らかの問題に触れながら,利子計算につなげていかれます.中世の利子の問題はそれだけで研究の価値があります. (Herbert Hahn, Von den Quellkra"fte der Seele.). 利子の公式を数学としてではなく,具体的な社会背景に沿って,社会的なものとして扱います.代数的な公式,いわゆる〈文字計算〉の意味というのは,何らかの法則的・概念的なものをそれで表わしているところにあります. そしてこれは,単に公式を扱うというだけではありません.それ以上に,子供の全般的な成長と関係しています. これによって具体物をイメージしながら考えることから,具体物から離れて概念的に思考するようになります. ですから,この段階での授業は決して抽象的になってはいけません.具体的な問題(利子)を話し,問題を解き,問題解決の際の法則を言葉で表現し,見つけた法則をさまざまに応用します. このプロセスの全体をさまざまな状況で体験させてやるようにします.シュタイナーは利子計算を強調していますが,その前に,パーセント計算と比例計算をやっておかなくてはなりません. 比例計算では逆に向かう比率も取り扱います.
銀行へ行き,両替や割引の計算を見せてもらうとよいでしょう. 子供に用紙に記入させられますし,また経済との関連で話題がたくさん出てきます. (郵便為替,振込など).まず初めに具体的な問題に取り組み,そこでの法則を言葉で表現させます. さらにその法則を代数的な公式に表現します. 私でしたら代数的な公式をこのように扱います.
本来の意味での代数には7,8年生で入りますが,6年生の終わりには,分数の計算法則を代数的に表現して,その準備をしておきます. 例えば,
a/c+b/c =(a+b)/c
です. また,実生活からの計算問題を扱いながら,この学年相応に10進数の単位系をまとめます. 長さ,面積,容積,重さを小数で書き,その換算をします.また,少数の測定値の切り上げ,切り捨てを教え,時間の単位と計算も扱います.
幾何学では本来の意味での証明を初めて取り上げます. ピタゴラスの定理の証明を,ルドルフ・シュタイナー再三取り上げています. (例えば『演習とカリキュラム』の中で).合同の定理とその応用を本当に理解できる可能性が出てきています. なぜなら,図形の向きが空間でどのようになっていても,その形を捉える能力が生まれてきているからです.この学年にユークリッド幾何学がふさわしいので,教師は〈空間と対空間〉の基礎を身につけていることが望ましいでしょう. 〈核〉と〈覆い〉といった問題を子供達に話しますと,幾何学と射影幾何学とのつながりが生き生きとしてきます.
この学年で初めて投影・射影学が加わってきます. 光によって空間内のものの形がわかるようになる様子,つまり,光空間と影空間について話します. (1921年1月16日の職員会議).全てをできるだけ実際的・具体的に,そして目に見えるような形で展開するとよいでしょう. この学年で初めて月の満ち欠けや星の位置などを学びますが,空間的な位置関係についてはその中で練習できます. 1923年のドルナッハでの講演でルドルフ・シュタイナーが大変に強調しているように,線描的遠近法を教える前に,色彩的遠近法に対する感情を育ててやる方がよいでしょう.
文献
『算術と代数』では4,5年生で述べた部分をさらに参照してください. ルイ・ロッヒャー=エルンストは17ページで利子の公式を扱っています. また実際的な利子計算を身につけるためのマニュアル本も手に入れるとよいでしょう. 今日ではもちろん,こうした計算はコンピュータで処理されていますが,預貯金を手計算していくための本は見つかるはずです.幾何学については既に紹介した Gerhard Ott のものを特に挙げておきます. 射影幾何学については,かなり程度は高いですがルイ・ロッヒャー=エルンストのRaum und Gegenraum.があります.7年生
7年生になって,本来の意味での代数を扱います. 足し算と掛け算,引き算と割り算の関係を『演習とカリキュラム』でシュタイナーが言っているやり方で進めていきます.これらを代数的に表記しますと,対応するより高次の計算へ移行できます. つまり,指数とべき乗根,さらには場合によって対数です. (対数は一番簡単な形のものを扱います).計算の諸法則(交換法則,分配法則,その他)がはっきりしてきますと,代数的な変形や一般形で計算なども学びます. 簡約化,括弧はずし,数値と括弧の掛け算,括弧同士の掛け算といったものです.検算としては,いつでも変数に数字を代入してみます. 2項の式,(a+b)2, (a-b)2, (a+b)(a-b) 場合によっては (a+b)3, (a-b)3
といったものまで,応用をたくさん取り上げながら練習することができます.
こうした公式からルート計算のアルゴリズムを導けます. ルドルフ・シュタイナーはこの計算を大変に建設的なものと見ています. 現在ではルート計算も電卓で非常に簡単にできますが,それでも丁寧に取り上げるべきものです.計算をアルゴリズムから理解するのは,今日益々重要な意味を持ってきています. そうした練習には,内的な法則を持つ数列が適しています.
負の数は,数のもう一つの領域に属する質を感じさせるように導入するとよいでしょう. 負の数に対する幾何学的なイメージ(温度計など)からは決して始めません.お札やコインとしては存在していなくても,実際に効力を持つ〈借金〉が負の質に対する正しいイメージです. 借金というのは,社会において人間同士の関係があって初めて生じます.負の質を持つ領域として,ルドルフ・シュタイナーはエーテル界を挙げています.
実生活と関連させて,1元の方程式を扱います. 特別な数(分数や負の数も含む)を代入する計算もよく練習します.方程式を解くに当たっては,生き生きとした形で因果律的思考を練習します. こうして,4つの明確な法則に行き着きます.
- 方程式の両辺に同じ数を足しても,同じ数を引いてもよい.
- 方程式の両辺に同じ数を掛けても,両辺を同じ数で割ってもよい. (ただし,0は例外).
幾何学ではまず四角形,次に三角形を計算します. 移動,回転,鏡像,点対称といった合同変換をしっていますと,証明の際にいろいろと役に立ちます. 面積計算の基礎に必要な範囲で,正方形,長方形,平行四辺形,台形,ひし形,三角形で等積変形を学びます.実際的な応用を幅広く取り上げます.
幾何学的な作図では,三角形の外心,垂心,重心,内心といった特殊点やオイラーの直線を紹介するとよいでしょう. 三角形の形をいろいろに変化させながらこれらの点を求めていきます.そうしますと,動きのあるイメージを生き生きとさせられます.
ピタゴラスの定理やそれに関連する諸定理を新しい観点から捉えなおします. ルート計算も取り上げますから,それと関連して,ピタゴラスの定理を長さの計算に応用していきます.c2=a2+b2, c=√a2+b2, あるいは,a=√c2-b2 こうした計算ではピタゴラスの定理における面積との関係が消えてしまいます.したがって,ピタゴラスの定理を長さの計算に応用するときには,慎重さが必要です. 面積と長さ計算との間には大きな壁があります. また,相互に貫通した物体の線描をお薦めできます.さらには,透視法を始めます.
文献
『算術と代数』では第5章と19章が参考になります. また,第30章では216ページ以降にはルート計算について述べられています. これについてはシューベルトの詳しい論述もあります.さらに,234ページではルート計算が短く扱われています. 第46章から49章では一次方程式の基礎が扱われています. 方程式論については,エルンスト・ビンデルの非常に素晴らしい本があります. Die Arithmetik. Menschenkundliche Begru"ndung und pa"dagogische Bedeutung. 幾何学についてはここでも,Gerhard Ott を挙げておきます.8年生
7年生で取り上げたテーマをさらに進め,より難しい課題を出します. いろいろな意味において,7年生ではひとつの単元を非常に初歩的に示しました. ですから,全てを繰り返し,練習した方がよいでしょう.特に方程式論と関連する部分を先に進めるとよいでしょう. (未知数が1つの線形方程式や未知数が2つの方程式).また,基礎的な不等式を扱うことは十分に可能ですし,望ましいでしょう.
幾何学では面積計算を進め,体積計算を新たに始めます. 作図や学んでいる計算との関連させて,重要な曲線を軌跡の集合として扱います. (放物線,楕円,双曲線,カッシニ曲線,アポロニウスの円).多くの先生方が,幾何学の中でプラトン立体(5つの正多面体)を扱っています.
文献
7年生のものに加えて,『算術と代数』の第50章を参照してください. 曲線については,ルドルフ・シュタイナーの『新しい建築様式への道』,ルイ・ロッヒャー=エルンストの『重要な曲線での行為としての幾何』. プラトン立体については,Paul Adam / Arnold Wyss, Platonische und Archimedische Ko"rper, ihre Sternformen und polaren Gebilde に述べられています.【注】
エルンスト・シューベルト(Ernst Schuberth)
マンハイムのシュタイナー教育教員養成ゼミナールの校長.ロシア,ルーマニア,アメリカなど世界各地でシュタイナー教育の教員養成に努めている.
シュトックマイアー教案
シュタイナー教育の内部資料として編纂されているもので,一般には手に入りません.
ルイ・ロッヒャー=エルンスト
ゲーテアヌムの代表でもあった数学者.代表の在任期は事故死のために極短期間でした.
n進数についての文献
第4章はn進数について書かれています. こうしたことの基礎知識は多くの本で触れられていますから,日本語でも文献はたくさん見つかるはずです.ウリーン著,拙訳『シュタイナー学校の数学読本』の3.1.節にもわかりやすい説明があります. それ以外で,私がルイ・ロッヒャー=エルンストの視点として興味深いと思ったのは,次の点です. 数と取り組む際には,3段階のレベルがある.
· 第1が純粋に概念的なレベル
· 第2が言葉での表現のレベル
· 第3に表記のレベル
私たちにとって10進法が計算し易いのは,(1)私たちがそれに慣れている,(2)言語が10進法に沿ってつくられている、というのが原因だといいます。 ですから、他の進数表記法は計算的には劣っている,というのはまったく誤った考え方である、という点です.
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