■シュタイナーが言う耳の働き
『人間の音体験』1923年3月7日の講演(第4段落)で、シュタイナーは耳について次のように言っています。こうした事柄を感じつつ理解するには、次の点をはっきりさせておかなくてはなりません。通常、音楽体験は耳と関係している、と仮定されていますが、その仮定は的外れです。音楽体験は人間全体にかかわるのです。そして耳は、通常仮定されている機能とはまったく違う役割を果たします。「耳で音やメロディを聴く」という言い方は、大間違いです。…完璧に間違いです。音(楽音)、メロディ、あるいは何らかのハーモニーとは、本来、人間全体で体験されています。そして、こうした体験が耳によって、非常に特異な仕方で意識に上ります。通常、音の媒体は空気と考えられています。空気を吹き込む管楽器ではなく、他の何らかの楽器でも、音は空気というエレメント(元素)に生きています。しかし、私たちが音として体験するものは、本来、空気とはまったく関係しません。事情はこうです。耳という器官は、音体験の前に、まず音から空気的なものを分離します。その結果、音を共鳴、あるいは反響として受け取ることで、音を音として体験しているのです。耳とは、空気の中に生きている音を、私たち人間の内にはね返す器官なのです。そのやり方は、音を空気エレメントから分離し、私たちが音を聞くことで、音をエーテルエレメントの中で生かすのです。つまり耳とは、空気の中での音の鳴りを克服し、音の純粋にエーテル的なものを、内に向かってはね返すためにあるのです。耳とは、音知覚のための反響装置なのです。
つまり、耳は音から空気を分離する器官であるというのです。これを模式図で示します。
■音と振動に関する経験則
ある音に対し、1オクターヴ上、2オクターヴ上、3オクターヴ上、という言い方をする。
ある音が110ヘルツだとすると、これはそれぞれ、220ヘルツ、440ヘルツ、880ヘルツとなる。
- 人間の体験レベル=音では、+1、+1、+1オクターヴ、と足し算的、
- 物質レベル=振動数では、×2、×2、×2振動数、とかけ算的(指数的)。
■空気の振動から音への道筋
空気の振動→鼓膜→三つの耳小骨→蝸牛管の円窓→蝸牛管のリンパ→蝸牛管の基底膜→コルチ器の繊毛→神経この道筋で、基底膜までは明らかに振動が関係しています。しかし、コルチ器と振動の関係は微妙です。
■基底膜での音高知覚のしくみ
振動は蝸牛管の中の基底膜を伝わっていきます。そして、その伝わり方は音高によって違います。硬い物体は高周波(高い音)も低周波(低い音)も伝えますが、柔らかい物体では高周波は通りにくくなります。緩く張った弦では音が低いのと同じ原理です。
ここで、基底膜の様子を見ると、基底膜は入り口付近(外側)では硬く、中心に近づくにつれ柔らかくなっています。ここに高周波と低周波が入ってきます。まずは双方とも基底膜の振動として伝わっていきます。ところが、基底膜は先に進むにつれ柔らかくなりますから、高周波はしだいに伝わりにくくなり、すぐに消えてしまいます。それに対し低周波は、蝸牛管のかなり奥まで伝わってから、消えることになります。そして、振動が消える地点のコルチ器の繊毛を刺激し、蝸牛管の入り口付近では高い音、中心付近では低い音を感じ取っています。
■音高の知覚位置は、足し算的
この図で、8000、4000、2000、1000、500といった位置を見ますと、ほぼ等間隔であることがわかります。つまり、オクターヴ毎に等間隔なのです。これは物質レベル=振動数が人間体験レベル=音に変換されていることを示しています。
■振動が消えるところで音が知覚される
さらにこの基底膜での振動の様子をシュミレーションした研究があります。するとある特定の振動数の音波が基底膜を伝わっていきますが、ある位置で急激に消えてしまいます。そして、その消える位置が、その周波数の音が知覚される場所と考えられます。Keidelより |
つまり、「物理的音波が消えるところで知覚としての音が発生する」と言えるのです。
これはまさにシュタイナーの言う、「耳とは、音から空気を分離する器官である」という言葉に対応します。
ここでの基本的考察は、E=M, クラーニッヒ先生のDer innere Mensch und sein Leib の聴覚についての記述を要約したものです。
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