■手の仕事におけるデザイン
シュタイナー教育では手の仕事を重視し、1年生から編み物などに取り組みます。そうした作品では、使えることが重視されます。手は世界に奉仕する存在だからです。そして、そこでのデザインも、使うことが前提になります。たとえば、リコーダーのケースでは、どちらに出し入れ口があるのかが明確であるようなデザイン、あるいはポットウォーマーでは、温かさを保つという機能、下が開いていること、そうしたことが見えるデザインをします。こうしたことを通して、「本質にふさわしいデザイン」という姿勢を身につけていきます。万年筆のデザインを例に、本質とデザインの関係をまとめます。
■書きにくさとの出会い
・先が太い
色鉛筆などで先が太くなってしまっていると、紙との接触点が確認できず、思った場所に書き込めません。
・持ちにくい
画像ではわかりにくいですが、このペンは持つ部分がサラサラな感じに仕上げてあり、持っていて非常に滑りやすいのです。光沢仕上げの部分の方がずっと安定して持てるくらいです。さらに悪いことに、持つ部分がやや細く、掴みにくくなっています。
■書きやすさとは何か(主に万年筆)
まず、「ペン」や「書く」といった事柄に関係する項目を、思いつくままに書き留めます。次にそれを、関連を意識しながら平面上に構成します。
このようにしますと、「ペン」についての概念図ができあがり、そこで本質的な要素が明確になります。
(こうしたやり方はほぼ常識なので、書くまでのことはないかもしれません。しかし、中高校生などの初学者のために、載せておきます。)
こうした概念図に沿って考えていくのが、物作りの基本です。たとえば、学校建築の際にも、学校内で生じることを中心に、こうした概念図を作ることができます。シュタイナー学校の設計をしている建築家のそれをチラッと見せてもらったことがあります。その建築家は、すでに何校かを手がけていましたが、その概念図自体はほとんど変更の必要がない、と言っていました。
■ペンを握る
さて、筆記用具を握るときに、ポイントとなる部分は4点あります。まず、親指、人差し指、中指の背の3点です。そこに親指と人差し指の又の部分が加わり、4点です。
■4点を考慮したペン
下図のペンは、親指と人差し指の触れる部分が平面で、安定して握れる構造になっています。さらには、指の又の部分も平面になっていて、それの安定に寄与しています。
■目と指の協調のために
持つ部分が先に向かって少し細くなり、ペン先を指し示していますので、ペン先を意識しやすい構造になっています。これによって、目と指の協調を取りやすくなっています。■デザイナー、ヴォルフガング・ファビアーン氏の1980年の作品
これは、(ウォルフギャングと表記されることが多い)ファビアーン氏が、小学生用にデザインした、Lamy社のSafariです。デザインという意味でのお手本的な例の一つです。
■握り持ちの理想の筆記具は?
指の力が弱い小学生が鉛筆でしっかりと書こうとすると、鉛筆をしっかりと握らなくてはならなくなります。そして、それが完全に習慣化した人も多く見受けられます。
この握り方を否定するのではなく、それに適した筆記具のデザインを考えれば、ひょっとしたら役立つものが生まれるかもしれません。
■副作用…基準が明確になると迷いが消える
2008年頃、私は興味本位で廉価版万年筆をいろいろと入手していました。目新しいものがあれば、欲しくなるのです。そのようにして手にした一つが、持ちにくいということで紹介したものです。
その「持ちにくさ」がきっかけになり、書きやすい万年筆とはどのようなものか、を考えて、その一つの結果がこのレポートです。
これをまとめることで、私の中にも変化がありました。目移りしなくなったのです。自分の中に明確な基準ができますと、進むべき方向が明確になり、無駄な目移りがなくなるのです。
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