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2014年8月11日月曜日

ウマでは○○の発達が全体を支配している

■ウマの走り方

身近によく見る犬の走り方を振り返ってみましょう。犬は後脚で踏み切って、空中姿勢では身体が前後に伸びた状態になっています。
フリーの画像をお借りしました
さて、フランスの画家テオドール・ジェリコー(1791年9月26日-1824年1月26日)の「エプソムの競馬」という作品でウマの走る様子を描いていますし、これは犬の走り方と同じです。これを見て「何か変だ」と思われた人は鋭いです。
ジェリコー『エプソムの競馬』Wikiより

実際、ウマはこのような走り方はしません。空中に跳びあがる直前後の様子を見ますと、その違いが明確になります。
Eadweard Muybridgeの古典的写真集より

犬では、後脚で踏み切って跳ぶのに対し、ウマでは前脚(3つめの画像の左前脚)で踏み切っています。その結果、空中姿勢が犬では前後に伸び、ウマでは前後の脚をたたんだ状態になっています。逆に、脚が前後に開いているのは、着地している状態です。

▲ウマのさまざまな脚さばき

ウマの脚はとても器用で、さまざまな歩き方から走り方ができます。この点については、ウマとの接点が少ない日本人にはあまり馴染みがありませんが、

  • Walk:観光客を乗せた馬の歩み
  • Trot
  • Canter
  • Pace & Stepping Pace
  • Gallop:競馬の全速力

といったものがあります。
trot、canter、paceはなかなか見る機会がありません。ここではyoutubeで紹介しておきます。


こうしたものを見ますと、ウマの脚に非常に活き活きとした力が宿っていることを感じ取れるでしょう。

■脚と足

Ellenbergerより 

ウシやシカなどが偶蹄目で、蹄が中指と人差し指の二本あるのに対し、ウマは奇蹄目に属し、蹄は中指の一本しかありません。しかし、ご承知のように非常に速く走ることができます。ウマの骨格で、たとえば後ろ脚で、どこまでが脚でどこからが足かを確認すると、非常に興味深いでしょう。膝がかなり高い位置にあり、足首から中指の先までは、細い柱のようです。「ウマには足はない」、あるいは、「足が脚化している」というのが、現象の忠実な表現ではないでしょうか。
ここで一旦、走り方に話を戻します。
ウサギなどでは顕著ですが、犬やネコなどほとんどの動物で、前脚と後脚の若干の役割分担が見られます。餌を押さえたりする際には、前脚を使うのです。そして、走る際の踏切は後脚です。ところが、ウマではgallopする際には、前脚で踏み切って空中姿勢に移りました。ですから、「ウマでは前脚が後脚的、つまり本来の脚的になっている」と言うことができるでしょう。
このように見ますと、「ウマとは運動器官である後脚が支配的である動物」と言えるでしょう。このようにウマと《運動》は密接にかかわりますが、運動原則が動物全体を貫いたネコ科の動物とは様子が違います。あくまでも脚であり、胴体部はむしろ動きを失っています。背骨の一部は癒着すらしていて、それだからこそ、全速力でgallopするウマの背中に人が乗れるのです。

■運動器官の発達に関連する形態の変化

首から尻までの背骨の諸部分、つまり頸椎、胸椎、腰椎で最も運動的なのはどこでしょうか。あるいは、頭部で最も運動的な部分はどこになるでしょうか。これは、自分自身の身体を見ればすぐに分かります。動きやすさという点から見れば、頸椎>腰椎>胸椎ですし、頭部では下顎が最もよく動くことは明らかです。この点をウマの骨格で確認してみましょう。頸椎の発達は明らかですし、胸椎は癒着しています。下顎の骨も巨大です。脳の入る部分を想像していただくと、その巨大さが際立つはずです。
Ellenbergerより

■循環系、呼吸系、消化系

私たちの身体は少し走りますとすぐに反応します。最初に気づくのは心拍で、さらには呼吸も変化します。時間が経てばもちろん空腹も感じますが、走っている最中にはあまり感じません。また、感覚器官で運動にとって特に重要なのは視覚で、味覚、嗅覚、触覚などはあまり重要ではありません。
以下のデータ(『馬の科学』競争馬総合研究所=編、講談社ブルーバックス)を見れば、ウマにおいて心臓循環系、呼吸器系、視覚がいかに発達しているかは明らかでしょうし、消化器系の発達度も予想通りと言えるでしょう。
運動のために重要な感覚は、視覚です。

▲心臓の大きさ

種類 体重 心臓の重量 心臓/体重×0.1
ヒト 60(kg) 250(g) 0.42
サラブレッド 485 4688 0.97

▲心博

安静時 最高値 倍率
ウマ 30-35 220-240 6-8
ヒト 60-70 180-200 3

しかも、最高心博数に達するまでに20秒しかかかりません。

▲血液量

動物種 血液量(ml/kg)
サラブレッド 103.1-109.6
ヒト 63.8-97.0

▲脾臓

血液を脾臓に貯えていて、運動時にはそこから血球が放出されます。
動物種 脾臓 赤血球数
サラブレッド 2023 945(623-1300)
ヒト 100-115 450-500

▲消化器

動物種 小腸 大腸 体長との比
ウマ 22.0 7.0 9-13
ウシ 36.0 11.0 20-22
ヒツジ 21.0 7.0 2-29

ウマには胆嚢はありません。また、盲腸は長さが1m,容積が30リットルあります。胃が比較的小さいので、少しずつゆっくりと草を食べます。しかし、いつも食べていろといった状態が続きます。しかも、若いやわらかい草を好んで食べ、丈の高い草を根もとまでは食べません。ウマでは、他の動物に比較して、便秘が比較的多いそうです。

▲眼球の大きさ

奥行き 縦径 横径 重量
ウマ 44mm 48mm 48mm 100g
ウシ 35 41 42 65
ヒト 24 24 24 74
































2014年8月9日土曜日

ライオンはリズム系が発達した動物

■動き

ライオンに限らず、ネコ科の動物の動きは非常にエレガントです。助走もせずに高いところに音もなく飛び乗りますし、待ち伏せた獲物を襲う時などは、静止からの一気の瞬発力を見せます。
《動きに適した身体》あるいは《動きに満たされた身体》の様子は、骨があまり目立たず、全体を覆うしなやかな筋肉が目につく外見からもわかります。馬では体重の20%が骨であるのに対し、ライオンでは13%程度です。動くのは本来の運動器官である比較的短い前後の脚ばかりではなく、胴部も非常にしなやかに動きます。脚に到っては先端まで動きに満ちています。つまり、爪を出し入れできるのです。これができる動物は多くはありません。動きという点では、尾も非常にしなやかで、表情豊かです。単に虫を追うために動かしているウシの尾とは好対照です。
Wikipediaより

そうした中でも、チーターの走る姿は動物の中でも最もエレガントな動きの一つでしょう。
トラの骨格(Starckより)

■狩り

満腹時のライオンは、まったくの怠け者で非常にだらしなく見えます。ところが狩りが始まると様相が一変し、真剣かつ精悍な様子を見せます。
また、ライオンはネコ科の中で、唯一、グループで狩りをします。仲間と連携しつつ慎重に獲物に近づくときなどは、最高度の緊張感がみなぎっています。獲物をしっかりと見据え、気づかれないように細心の注意を払って獲物に近づきます。ライオンは素晴らしい連携を見せ、たとえば待ち伏せをするグループと獲物を仲間の方に追い立てるグループといったように分業が進んでいます。獲物に襲いかかるときには、まず爪で相手を引き倒します。ちなみに、ハイエナやオオカミのようなイヌ科の動物では、最初から噛みつきます。

インパラを狩るライオン(YouTube)


チーターの狩りでは、それほど緊張感はありません。自らの姿を獲物の前に姿をさらし、ゆっくりと周りを走りはじめます。もちろん、獲物は騒然としますが、チーターはそれを意に介さず、ゆっくり走りながら、獲物を見定めます。そして、群れから一匹を選ぶと、一気にトップスピードで追い、十数秒で決着をつけます。

■食事

食べ方はがつがつしていて、エモーションがむき出しです。食事中は仲間に対しても、うなり声をあげ、威嚇し、一切れの肉を奪いあいます。体重が120kgから240kgのライオンで、一回に30kgから45kgの肉を食べることすらあるといいます。体重の1/4のステーキです。そして、満腹すると完全な怠け者モードに入り、そうした状態が3~4日続きます。平均すると、メスで一日5kg、オスで7kgくらいの肉を食べると言います。

■エモーション

「猛獣でも、不要な殺生はしない」と言われていますが、嵐のときや満月の時には、ライオンは必要以上に獲物を殺すことがわかっています。外的状況で、エモーションが刺激されてしまうのです。
また雄ライオンは、自らの集団(プライドと呼ばれます)を確保するためなど、凄まじい声での吠えます。静かな夜などは、16km遠方まで声が届きます。箱根駅伝の1区で言えば、大手町から川崎くらいの距離です。まあ、この地区が静かになることはありませんが。
ネコ科の動物は基本的に単独行動をとります。実際、エモーションが強いもの同士が集団になるのは難しいでしょう。そのネコ科にあって、唯一の例外がライオンの雌です。これは仮説でしかありませんが、雌ライオンも吠え声をあげ、エモーションを発散することで、集団生活を営んでいるのかもしれません。

■静止と運動、エモーションに関係する臓器

静止と運動を日々繰り返している臓器と言えば、心臓です。「心臓は絶えず動いている」と言うのは、事実ではありません。常に、静止と運動を繰り返しています。たとえば、一番激しく動く右心室の壁の筋肉であっても、基本的には静止していて、必要なときにだけ、一気に動いています。この動き方の特徴は、まさにライオンの行動に現れる特徴と同じです。心臓がエモーションと関係することは、私たちも日常的に体験しています。緊張すると心臓がドキドキするのです。あるいは、怒りから心拍が変化するのを感じ取ることもあります。
運動やエモーションに関係するもう一つの臓器が肺です。待ち伏せは「息を潜めて」ですし、攻撃は「一気呵成」といった表現をします。そこには、呼吸に関係する言葉が含まれます。また、肺もリズミカルに運動と静止を繰り返していることは周知でしょう。
全体重に対する肺の比率は、ウマで0.70%、ウシで0.72%、ライオンでは2.12%です。また、心臓の比率は、雌ライオンで0.57%、雄ライオンで0.45%ですが、ウマは0.75%程度、ハイエナでは1%弱にまで達します。
つまり、胸部における呼吸のリズム、脈拍のリズム、そして呼吸と脈拍のバランスがライオンという動物の本性に大きく関係しているのです。

■頭部の特徴

ライオンの頭部の特徴は、鼻筋が非常に高く、幅が広い点である。鼻とは、頭部における呼吸器官で、そこが発達しているというのは、肺が発達していることと完全に相関関係にあります。
Wikipediaより

2014年8月8日金曜日

鳥(ワシ)は感覚系の動物

■鳥について共通に言えること

頭部、胴部、四肢の比率を考えてみましょう。
一番目立つのは胴部ですが、その中でも上部に当たる胸郭部と、それに繋がる人間の腕に当たる部分、つまり翼が一番目立ちます。

その中心ブロックから(静止状態では)上に頭部、下に脚部があります。カラス、スズメといった脚や頸の比較的短い種類から、サギ、ツルなどの脚や頸の長い種類まで居ます。大雑把に見れば、「頸の長い鳥は脚も長い」という傾向がありそうです。もちろん例外もあり、白鳥などの水鳥は頸が長くても脚は短い傾向があります。
Starck『比較解剖学』より

■鳥の感覚

鳥の感覚器官を比較してみますと、他の感覚に比べ視力が圧倒的に優れています。味覚や嗅覚はあまり発達していません。フクロウでは聴覚も非常に優れています。
猛禽類の眼を観察してみましょう。
Starck、比較解剖学より

まず大きさはかなり大きく、頭蓋骨の中で占める割合は脳より大きいようです。
眼の性能を考えると、非常に高性能で,解像度は6倍の双眼鏡に匹敵するそうです。しかも、私たちが双眼鏡をのぞくと、視野が非常に狭くなってしまいますが、鳥の場合は高解像度でしかも広範囲が見えています。
また、動体視力的要素も非常に優れています。映画のフィルムは、少しずつ変化する静止画を1秒間に24コマの速さで取り替えていくと、人間は「バラバラな絵」としてではなく「連続した動き」と見なします。静止画を送る速度を遅くして、たとえば1秒に1コマの割合にしたら、それはもはや「動く絵」ではなく、やや早いスライドショーでしかなくなります。ところが、その点での視力が優れた鳥では、150コマ/秒がスライドショーに見えるのだそうです。

▲二つの黄点

眼の網膜上には、視細胞が特に密集した部分があります。そこに結ばれる像は、人間の視野では中央部分に感じられます。視界としてよく見える部分と、網膜上での視細胞が密な部分が対応しているのです。私たちはその部分を使って、字を読むなどの集中した作業を行っています。鳥では、網膜上に黄点が二つあります。その二つの黄点を使って、前方を注視しつつ、横にある物体もしっかりと見ているはずです。

▲眼の解剖学的特徴


  • 動眼筋は未発達で、代わりに頸がよく動く
  • 形は全体に偏平である
  • 神経結合(シナプス)がすでに網膜上にあり、そのため網膜が厚くなっている
この三つの現象が何を語るかを考えてみましょう。まず、動眼筋の問題を取り上げます。
友人が居て、その人の斜め前方から話しかけたとしましょう。その時の相手の反応として3つの可能性を挙げます。

  1. 身体全体で自分の方を向いてくれる
  2. 顔を自分に向けてくれる
  3. 姿勢は変わらず、視線だけ自分に向けてくれる

この3つの反応で、相手の自分に対する結びつきの違いが感じ取れるでしょう。つまり、3では自分自身の位置を保っており、相手の気持ちは完全には自分に向いていません。それに対し、2や1では相手の気持ちが私に向いていて、ずっと一体感があります。
これをヒントに考えますと、鳥では3の態度を取ることができず、最低限2の状態で、対象と直接に結びついていきます。
これを鍵にしますと、扁平な眼球というのも理解できます。奥行きが深くなればなるほど、対象と自分を切り離しつつ、いわば認識的に知覚する方向になります。しかし、鳥の場合には、見ている世界とより直接的に結びついている、と言えるでしょう。そして、眼の奥にあるべき視神経が眼球内までせり出してもいるわけです。
こうしたことから、「鳥は視覚世界と密接に結びつている」と言えるでしょう。

また、鳥類の発生では、まず眼が発達してくることも特徴的です。

■羽

羽を持つことは鳥の大きな特徴です。これは非常に軽く、羽毛3500本で2g程度しかないのだそうです。羽の主軸は空洞になっていて、中には空気が入っていますが、羽から枝分かれした細い部分も空洞になっているそうです。こうした空気の力もあって、羽にはすぐれた保温性があります。
また、羽はかなり死んだ器官です。羽が成長してくる際には、当然生きています。しかし、一旦成長してしまいますと、傷がついても再生能力はなく、一枚の羽全部が生え替わる必要があります。だからこそ、羽の一部を切って飛翔能力を弱め、ペットとして飼うことも可能で、次の羽の生え替わり期までは、飛んでいなくなってしまうことはないのです。

▲羽は空気の知覚器官でもある

鳥の羽を持ってみますとよくわかりますが、羽が受ける抵抗で、空気の動きをよく感じ取ることができます。
風の強い日には、カラスは風と遊びます。特に必要もないと思われるアクロバット飛行を行うのです。これは風を感じとっていなくてはできません。そして、その際には翼の先の羽で風を触るような仕草をします。

▲ツルはなぜ一本脚で眠るか

スズメなど多くの鳥がバランスを取って電線にとまっています。ただし、このバランスという意味が人間の場合と大きく違っています。人間にとってのバランスとは《対重さ》でのバランスです。しかし、電線上の鳥にとって重要なのは《対空気》に対するバランスです。そして、そのバランスを見事にとっています。
ツルはなぜ一本脚で眠るか、という素朴な疑問が昔からあります。体温のロスを減らす効果がある、などさまざまな説があります。これに対して私にも仮説があります。《対重さ》でバランスをとるなら、二本脚の方が有利であることは間違いありません。しかし、《対空気》でのバランスでは、一本脚でも二本脚でも大差はありません。つまり、鳥は一本脚で眠ることで、「私は空気の中でバランスを取っている」と宣言しているかのように思えるのです。実際、風が吹く中で鳥が立っているためには、対空気のバランスが重要なのは明らかです。

■鳥は空気に満たされている

羽の軸が空洞になっている点はすでに触れましたが、鳥では胴体内、さらには翼の骨の中に気嚢という器官があり、空気が入っています。
野鳥事典のサイトよりお借りしました

ヒマラヤ山脈を越えることができるアネハヅルという鳥もいるくらいで、鳥の呼吸器は大変にうまくできていますし、そのために気嚢は重要な役割を果たしています。
人間の肺では、その微細部分である肺胞に到るまで《フイゴ》と《ガス交換》の二つの役割を果たしています。ところが、鳥ではこの二つの役割を分けているのです。つまり、《フイゴ》の役割は気嚢が果たし、《ガス交換》はそれ自体は動かない肺が行っています。そして、血液と空気が常に流れるなかでガス交換をしているために、上空の空気の薄いところでも効率よくガス交換できるのです。

■地水風火の火との関係も密である

鳥の体温は全般に高く、ノスリでは40.5度にまで達します。そうした体温維持と関連して,一日に体重の1/6の餌を摂るものもいます。体重60kgの人が10kgの食事をしている勘定です。
また、鳥では、呼吸のプロセスで熱が生じることが知られています。このように、風や火との関係は強いものの、水や地との結びつきは強くありません。身体に矢が刺さっても、さしたる出血もせず、生活を続けるカモなどがニュースで紹介されたこともあります。

鳥が水浴びをすることはよく知られていますが、鳥は濡れません。水と一体になることはないのです。

■その他の特徴


  • 背骨が相互に癒着している
  • 咀嚢や砂嚢を持つ

■人間の頭部との比較

人間の骨格で、骨が癒着していく傾向が最も強いのは、頭部です。新生児では大泉門が開いていますが、約二年をかけて閉じていきます。しかし、その閉じる傾向はその後も続き、骨同士が縫合面でつながり、さらには縫合面すら見えなくなります。その骨格融合傾向が鳥では胴部にも見られます。
人間では、食べた物をまず口腔内で咀嚼し、細かくします。しかし、鳥では、「鵜呑みにする」という表現があるくらいで、ほぼ丸呑みです。しかし、まったく咀嚼しないわけではなく、胴部の咀嚢や砂嚢で食べた物を細かくします。特に砂嚢では、砂まで飲み込んで、食物とすりあわせることで、食物を粉砕しています。つまり、人間では頭部で行われている咀嚼という働きが、鳥では胴部で行われていることになります。
人間でも、骨の中に空気の入った空洞があります。それが最も顕著なのが頭部の副鼻腔です。また、前に書いた通り、鳥では胴部に気嚢という空洞がありました。つまり、肺以外の空気部分を見ると、人間では頭部がそれに当たり、鳥では胴部がそれに当たります。

このように見ますと、鳥とは身体全体が頭部であり、鳥の頭は視覚と聴覚の出先機関として、空間に張り出している、と考えることができます。


鳥の姿はカメラマンの憧れでもあります。こんな写真を撮る人もいました。
ツバメの飛翔


この論考の基本は、Ernst=Michael Kranich先生のレクチャー並びに書籍です。そこに、いくつかの現象を加えてました。

2014年8月2日土曜日

ウシは消化・代謝系がドミナント

■外に向かった活動


  • 木や柵に身体をこすりつける
  • 仲間をなめる
  • 牡牛同士は極希に闘うこともある
  • 全般にゆったりしている

つまり、外界への働きかけ、相互コミュニケーションなどは乏しい。

■身体外観の特徴を馬と比較



ウシでは

  • 胴部:大きく、そこに多くが集中している
  • 頭部:せいぜい水平程度までしか上げられない
  • 脚 :比較的短く、幹のようで、重たい身体を《支え》ている。また、先が二つに分かれた蹄も《支える》機能を果たしている。大きく曲がった関節には《荷重》を受けている様子が現われている。

■動き

すばやくエレガントな動きは難しい。

■内臓の特徴

内部(内臓)での活動、特に消化活動は活発である。大きな胴体には、主に消化器が詰まっている。

▲食道&胃
食道に相当する、こぶ胃(150l)、網胃、葉胃、の3つの胃と、本来の胃である しわ胃の4つの胃がある。前の2つは「ルーメン」と言われ、また、容量は全体で約200lである。
葉胃(3)には、細かいひだがあり、大量の水分を再吸収する。しわ胃(4)では再び別な消化液が1日に100l 分泌される。
新生時
こぶ胃 < 1/2・しわ胃
3ヶ月
こぶ胃 > 2・しわ胃
▲腸
腸の長さは50m以上あり、発達している。大腸は平べったい螺旋状で、1.5~2回ねじれている。羊ややぎの3、4回に比べると、少なく、糞はどろどろで、《解消的、溶解的》傾向(固め形作る形態形成の逆)が現れている。

■頭部と唾液腺


図からもわかるように、唾液腺の方が脳より大きく、1日に100l以上を分泌する。
1日あたりの唾液の量
牛 110l、干し草では180l
馬 40l
羊 6~16l
人 1~2l
牛では、解剖学的に見ても、胃を中心とする消化器官がメインになっている。いわば、消化器官が牛の本性を理解していくための鍵になるので、それを中心に他の部分も見ていく。

■胃と感情

胃と感情はどのように結びついているだろうか。胃が空だと、そこからは空腹感が湧きあがってくるし、十分に満たされれば、満腹感を覚える。牛の内面の営みを考えると、ほとんどそれだけと言ってもよいくらいである。

■その他の特徴

多くの動物では口の中だけが湿っているが、牛は口の外側まで湿っている。
草を食べるときも、歯や唇で草をちぎるのではない。舌を草に巻き付け、それで引っ張り込んでいる。この時に、味わってもいる。

■ウシの一日

早朝から2.5時間から3時間かけて草を食べる。
30分から1時間の休憩の後、多くの場合横たわって反芻を始める。胃に入れた草を少しずつ口に戻して、リズミカルに49、50、51回くらい噛み、再び飲み込む。この時には、多くの唾液が分泌される。したがって、口腔は第5の胃とも言える。

1日8~10時間、量としては、小型種で50kg、大型種で80kgの草を食べ、反芻にもほぼ同じくらいの時間をかけている。それと同時に、当然腸も活動している。
物質の変容に専心している。

■感覚

視覚、聴覚よりも、味覚、嗅覚の方が重要である。

■対極的なプロセス

分解・解消プロセスと形態形成プロセスは対極的である。その視点で見ると、消化は解消的である。また、歯の形成は典型的な形態形成である。
ウシの場合、消化活動、つまり分解・解消プロセスがメインなので、形態形成はやや弱い。したがって、歯の形成は十分でなくなるはずである。実際、上下とも犬歯はなく、上顎には周囲の世界に対する《境界》である門歯がない。
また、前頭骨が優勢で、後頭部までこれが覆っている。側頭骨や後頭骨は表に現れていない。
頭部は顎と口腔と鼻から成り立っている。頭部で消化にかかわる部分である。

■角について

通常、ウシでは側頭骨や後頭骨に移行する部分に角が生えている。皮膚が硬化して爪のようになり、それが周りをカプセルのように覆い、その内部では、骨もスポンジ状になり、そこに非常に多くの血液が流れ込んでいる。ここでは、内部と外部が非常に強く遮断されている。(ウシの角とシカの角は正反対)また、角がなくなると、群れの中での順位争いが通常のようにはできなくなる。

■代謝

消化液1lをつくるのに、血液は300l必要である。また、栄養の吸収にも血液の循環が必要である。牛乳をつくるにあたっても、1lのために300~500lの血液が必要である。育種によって乳量は非常に増え、1日に20l以上もの種もある。搾乳時には100lの水を飲む。

■牛の重さ

消化・代謝の動物であるウシは、当然体重も重くなる。

一般的な種類         メス600~700kg オス1000~1200kg
メーヌ・アンジュ(最大種)  メス900kg     オス1760kg
妊娠期間は9ヶ月で出産は主に夜。

■ウシの集団心理と代謝

牛は群れの動物であり、単独で飼育すると、食べる量も牛乳の量も減る。コミュニケーションの活発な動物ではないが、《仲間》の存在は大きな意味を持つ。これは、感情が無意識のうちに胃や腸に影響し、また胃や腸は感情と密接に結びついていることからも当然であろう。
鳴き声、「モー」。身体の深くから、つまり代謝系から出てきているような感じではないだろうか。
牛は、力強くぼんやりした動物である。仮に耳元で銃声がしたら、どう反応するだろうか。ウサギ、猫など他の動物と比較するとイメージしやすいかもしれない。

■ウシは消化・代謝系がドミナント



2014年7月26日土曜日

4年生の動物学エポックの指針

(後半に5年生での動物学についても少し触れています。)

■ 4年生という年齢の特徴

4年生以降、対象と向かい合う姿勢が生まれます。そして、世界を新しく体験しなおすことに喜びを感じます。こうした子どもたちの喜びをうまく活かすには、「美」にアピールするとよい。言葉での表現の仕方、イラストやそのスタイルに工夫をし、授業のすべてが、刺激的で、興味深く、冒険的で、感受性に働き、同情を呼びように構成することを理想とする必要があります。 1~3年生では意志 4~5年生では感情 6~8年生では思考 に働きかける、と考えればよいでしょう。 外の世界のさまざまな叡智を美的な組み上げて教材にし、それによって子どもの行為が駆り立てられるとよいでしょう。

■ 人間学そして動物学

前提として、4年生以前に、お話の中などで動物、植物、四季などを簡単に知っている必要があります。 3年生以前には、子どもたちはたくさんのお話を聞いていますが、それらは本来の自然学の授業内容と本質的なところでつながっていなくてはいけません。たとえば、低学年で聞いた「狼」の話が中・高学年で学ぶことと矛盾してしまったら問題です。

■ エポックの順の問題

シュタイナーは取り上げるエポックの順について、いろいろ言っています。それでも、基本的には、人間学→動物学→植物学の順にします。そして、自然認識の鍵になる存在である人間から始めます。鉱物、植物、動物のどれをとっても、高次の意味で人間とのつながりを洞察したときに、その本質を理解できるからです。
たとえばミミズは土を食べ、体内を土が通過する際にそこに含まれるバクテリアを消化吸収し、残りの土は排泄します。つまり、ミミズはほとんど人間の腸と同じ活動をしています。

■ 人間の形姿

人間の外見を見れば、その三層構造は明らかですし、これが中心的な視点になります。そして、数年間をかけて、さまざまな授業でこの視点に肉付けをしていきます。
4年生向けのポイントも、人間の頭部、胴部、四肢を球のメタモルフォーゼとして捉えます。 頭部は太陽的で完全な球 胴部は月のように部分的な球 四肢は星的に放射状 この視点を多角的に捉え、分かり易いかたちで、しかも芸術的に取り組むのが望ましいでしょう。そのためには、実際の人間観察、フォルメン線描、粘土、水彩、線描、さらには適切な作品の朗唱といったことが関係するでしょう。 その際には、身体の三層性に関係した機能も扱います。 頭、胴、四肢で人間は何をするのでしょうか。こうした事柄と、生活体感や芸術感覚を含めて取り組みます。シュタイナーが『教育芸術』の講演で簡単に触れた物を生き生きとした形で授業の中に取り入れることができます。
「人間は頭で何をするか?」と問いますと、子どもはすぐに、「見る」「聴く」「鼻では嗅ぐ」「味わう」「考える」といった具合に答えます。 教師は補足しつつ、まとめます。つまり、 頭部や頭部器官で、人間は外界を知覚し、外界の像を作り、それについて考えます。つまり、人間は外界を自分自身のものにし、内側にすべて持ちます。そして人間は、巨大な外界にあって、唯一人の自分になります。頭は外界に出て行きはしませんが、外界すべてを持って、完全な存在としてそこにあります。 「世界のすべてを持ち、しかも世界から独立した存在を彫刻家が創るとしたら、どんな形が生まれるだろう。それは、世界を丸ごと持っている。どんな形になるだろう。皆もやってみるかい」。 外界から独立し、外界すべてを包括するイメージとして、球ほど適切なものはないでしょう。こうして頭部のフォルムと機能とが対応していることを生徒たちは認識します。
胴部も同様に取り組みます。 胴は、上と後ろでやや閉じ、下と前でやや開いています。(より正確な表現としては、頭部側と背側でやや閉じて、四肢側と腹側でやや開いています。)つまり胴部は一方では球に近く、もう一方では開いた受け皿の形です。それによって球の一部という形態になります。この領域の機能は、呼吸や拍動といったリズムに関連する事柄です。そして、呼吸において顕著ですが、そこでは絶えず内外の相互作用が生じています。吸気、呼気です。 外の世界から何かを取り込み、それを自分自身の一部にし、それを変容させてまた外の世界に返します。つまり、外の大きな世界のほんの一部を自分のものにし、それを自分のものとして終わらせてしまうのではなく、受け取ったものを変容させて返します。胴部にはこうした機能があり、イメージとして具体化しますと、開いた球になります。
四肢は放射状です。「人間の手足は、外の世界から働きかけられ、外に働きかけるから、外とつながるように広がっている」といったイメージで語りますと、子どもはそれをすぐに感じ取ります。 外からの働きかけと、内からの働きかけでは、どちらが先かは検討が必要でしょう。しかし、闇で手を伸ばす場合と明るいところで手を伸ばす場合では、体験はまったく違います。この違いを活き活きと感じ取りますと、外からの流れが重要なことがわかるでしょう。
粘土を使って球形から頭部をつくります。そのときに、粘土を形作る手は、常にその中心に向かっている点に子どもの注意を向けます。 逆に、四肢を伸ばしていくときには、「外のどこか」に向けて粘土を引っ張っていくことにも注意を促します。そうしますと、球では静止、放射状では周囲に向けての動きが感じ取れるはずです。
頭部の球と放射状の四肢は対極ですし、それらがお互いを補っています。そして、これを出発点に子どもは人間生理の三分節、つまり神経活動、呼吸拍動活動、代謝活動の視点を学びます。この視点は、後に動物を学ぶことでより豊かになります。経験的には、きちんとした人間学的導入には、最低3日、場合によっては一週間をかけます。最初の動物はその後に取り上げます。

■ 動物の形姿

動物学エポックについて、シュタイナーは《頭部動物》として一般的なイカ、《胴体動物》として一連の馴染み深い動物、ネズミ、シカ、ヒツジ、ウマを取り上げるよう助言しています。人間学を上述のように行いますと、こうした動物は非常に繋がりよく導入できます。
イカは動物界における最高度の頭部形成を見せています。 そして、これとの関連で貝も扱うことができるでしょう。貝はイカやタコと同じ軟体動物です。ただ、ほとんど完全に固い殻(人間で言えば頭蓋骨)の中に入り込んでしまっているのです。 このように、頭部領域だけでも対極性が見られます。イカについては、『教育芸術』第7講、イカは頭の動物のページを参照のこと。
《胴体動物》についても活き活きと描写します。もちろん、イカを描写するときとは違った口調が必要でしょう。シュタイナーが挙げている動物は一般的で、子ども自身がすでに知っているので、教えやすいでしょう。絵や粘土での練習、作文といったものも活用してください。
イカやネズミ、ヒツジ、シカ等の特別な点を学び、 最後にまた人間に戻ります。 イカは身体全体が頭部的な動物であり、ネズミ等が胴体的動物であることを学びました。 そして、人間は《手》があることで人間である、というイメージを子どもに与えます。 これは、特に4年生にとっての重要なモチーフです。《頭》がいいから人間なのではありません。行為を通して、未来に向かって作用できる唯一の生物であるからこそ人間はこの地球で特別な役割を果たすのです。《手》を使って、地球を傷つけることもできますし、自然をいたわり、育てることもできるのです。6年生を過ぎたら、《頭》の重要性も感じ取る必要がありますが、4年生では意志の領域である《手》がまず重要です。
どの動物も非常に起用で、生きるに必要なものを生まれつきほとんど持っています。 ところが人間は、走るのも、跳ぶのも、聴くのも、よじ登るのも、嗅ぐのも動物より劣っています。 しかし、一つだけ人間には可能性が残されていて、それはまた人間だけで可能です。 生きること束縛されず、特に腕を、善きもの美しきものに向けて使うことができるのです。他の人や痛めつけられた地球を救うことができます。美しさに向けて絵を描くことも音楽を奏でることもできます。尊敬に値するものへの敬意を行動として示すことができます。手足によって人間は自由な存在になることができます。
これがこのエポックの終着点です。子どもは、9歳から10歳という人生の過渡期に自身の全生涯をこのエポックの中で展望し、決定的な力を受け取ります。

■ 動物エポックの持つ他の意味

動物学エポックは4年生で中心的な意味を持ちます。また、新しい考察方法も学びます。この考察方法は大人にとっても必ずしも慣れ親しんだものではありませんので、父母会でこのエポックについて、基礎から話しますし、これは決して手を抜かない方がよいでしょう。

■ 5年生での動物学

すべての自然学授業において方法論的に中心になるのは、「人間から出発する」という点です。人間の理解が自然の理解につながるのです。しかしこれは、擬人主義ではありません。そうではなく、自然学の授業における方法論に心理学的、認識論的に明晰な基盤を与えるものです。
4年生で人間の形態学側面から、つまり形を見れば明らかな三層構造を置き、これが動物学の基礎になりました。5年生では人間の機能的な面における三層性を見ることができます。
  • 感覚・神経組織
  • リズム的組織
  • 代謝・四肢組織
をエポックの最初に置くことができます。 人間の魂の営みである思考、感情、意志を取り上げ、それを内的に見て明確にするとよいでしょう。 人間を見ることで、この三層性に対応するワシ、ライオン、ウシの3動物の理解につながります。 ワシとは鋭い視力までも含めて空気と親類で、高みにおける生活に完全に適応しています。 ライオンは特に血液循環と呼吸の比率に裏打ちされた形成になっています。 そして、ウシでは代謝系が主たる器官になっています。
エポックの流れの中でこれらの動物が取り上げた動物のクライマックスになるようにするとよいでしょう。つまり、ワシが鳥全体のクライマックスになります。 取り上げる動物を絞る必要がありますが、そのための基準としてさらなる三層性が有効でしょう。フクロウは鳥の中でも特に目覚めた意識を持つ動物であり、歌鳥は巣づくりや歌に現れるように内面が際だっています。もう一つは水鳥や家禽で、代謝的要素が強く表れています。
ライオンを含む動物群でも三層性は意味があります。クマはライオンに比べ四肢や消化器官がよく発達しています。また、トラ、ヒョウ、チータ、ヤマネコといったネコ科、さらにはオオカミ、キツネ、特に狩の方法や群れでのコミュニケーションとかに見られる賢さ(頭部)です。
ウシの関係では動物の幅が広く、上述のようなはっきりしたタイプがはっきりしません。家畜種ばかりです。 それでも、バイソン、ヨーロッパ・バイソン、チベット・ヤクは牡牛的な要素が根源的な形で現れた例でしょう。 動物の様子を語っていくと、このグループ内での秩序が見えてくるでしょう。 重さの力や素材と密接に関わる動物群、森の環境に対し特別な繊細さを持っている動物群、見渡しとか目覚めた意識に対し特異な関係を持つ動物群です。 第一のグループに属するものとしては、重さに対し特別な関係を持つ山羊、アルプス・カモシカ、自身の代謝系に深く入り込んでいるカバ、ブタがあります。周囲に対し繊細なつながりを見せるのはシカやカモシカです。そして、第三のグループでは頚部の形成が主となったキリンを挙げられます。
こうしてたくさんの動物形態を見渡した後に、再び人間に目を向け、機能的な生理学から人間の魂的活動を理解する方に向かいます。そして、エポックの最後には、三層性からより高次のものが発展している。人間はワシ的ライオン的ウシ的なものを調和させている。古い時代にはある種のイマジネーションがあって、それを絵で表現しています。それがワシ、ライオン、ウシ、天使(人間)という『四動物』です。 これらは、四つの福音書のシンボルでもあります。つまり、ワシ=ヨハネ、ライオン=マルコ、ウシ=ルカ、人間=マタイです。

■ 種の保存について

『演習とカリキュラム』第9講(高橋巖訳、P192、5行)でシュタイナーは「ために働くという表現は避けてください」と述べています。ですから、「動物の形態が用途と強く結びついている」という表現の方が適切です。「有用性」という語には価値判断の要素が入り込むのに対し、用途と強く結びついている、というのは事実を客観的に表現しているからです。たとえば、ウマの蹄は大地を強く蹴ることと結びついている、と表現できるはずです。
また、個体保存、種保存の概念も容易にダーウィニズム的解釈につながるので、避けた方がよいと思います。 その生物が生き、またその種が生き延びているのですから、何らかの形で個体保存、種保存はできているのです。ですから、動物のある性質をそこに結びつけるのは容易ですが、それは実のあることは何も言っていないのです。 一例を挙げます。 タラはタラコとしてたくさんの卵を産みますが、種が安定的に保存されるためには、その中から2個体が生き延びれはよいのです。ですから、こうした動物を「多産多死タイプ」と言っています。逆に、ゾウなどは一生の間に産む子どもの数は少ないですが、上手に育て、統計的には1対の雄雌から2頭のゾウが残ります。昆虫でもアフリカの風土病である眠り病を媒介することで有名なツェツェバエは少産です(データを見失いました)。 つまり、多産多死でも少産少死でも種は生き残るのですから、「タラはたくさん卵を産むから種が保存される」という論法は成り立ちません。むしろ、多産多死の動物は環境との関係が密であり、少産少死の動物は周囲の世界から自立していると見て、そこからその動物のキャラクターを読み取る方がゲーテ自然科学的です。
現代においては、子どもはいずれどこかでこのダーウィン的思考法と出会うでしょう。理想としては、適者生存理論の薄っぺらさを感じとれるくらいに、動物エポックの中で、動物の本質と深く出会っていることが望ましいでしょう。


2014年7月19日土曜日

『教育芸術』第7講、イカは頭の動物

■人間は動物界の集約図


4年生の動物学エポックでは、さまざまな動物を《人間の一部が強調されたもの》として取り上げます。もちろん、このテーゼを直接に教えるのではなく、様々な例で子どもたちが自然に納得できるように導きます。
たとえば、人間の頭部、胸部、代謝系がそれぞれ強調された動物は、ワシ、ライオン、ウシになります。また、ミミズは腸と同じ役割を果たしていますし、クモなども人間の特定の器官と関連しています。

■イカは頭だけの動物?

さてこうした関連でシュタイナーは、最初の動物学エポックで、イカは身体全部が頭で、それが海を泳いでいる、と教えるように、『教育芸術、教授法第7講』の中で例として取り上げています。
しかし、通常の動物学では、「イカやタコは軟体動物の頭足類と呼ばれ、頭から直接に脚が生えている変った動物」と学んでいますと、「イカは頭の動物」というシュタイナーの言葉はにわかには信じられませんし、私も違和感を感じながら、確信も持てずに何年もの月日を送りました。
ところがこの問題を、現象学的に真っ向から取り組んで、解決したのが1995年に出版された『Wesensbilder der Tiere(諸動物の本質的な像)』という本でした。これを見たあるシュタイナー学校の先生が思わず、「ようやくイカについてわかった」とつぶやいたそうです。

■イカの形態を囚われなく観ると

イカには脚が10本あり、そのすぐ近くには大きな眼があり、眼の間には脳があります。その脳の後ろには、消化器を中心とする内臓が詰まった胴体があります。ですので、まさに頭から脚が出た「頭足類」で、イカの専門家である奥谷喬司氏も「神様の作品のうちで最も奇抜なデザイン」と言っています。
しかし、まずは、何の先入観もなしにイカの姿をよく見なくてはいけません。
奥谷喬司著『イカはしゃべるし空も飛ぶ』より、許可を得て転載

イカには、脚が10本ありますが、そのうちの2本は長く、残りの8本は短目です。脚には吸盤や鍵状のものがついていて、それで獲物を捕らえたり、交尾の際には相手にしがみついたりします。
獲物を見つけると、隠し持っていた長い腕足を目にも止まらぬ速さで伸ばし、捕まえ、カラストンビと呼ばれるくちばし状の歯でかみちぎります。口は円周上に並んだ8本の脚の真ん中にあります。逆に言えば、脚は口の周りに並んでいます。
また、カラス・トンビはリング状の筋肉の奥に隠れていて、通常は見えません。
カラス・トンビは厚みのある骨ではなく、筋肉に裏打ちされた爪のような感じです。外からは見えませんし、そんなに頑丈でもないことを考慮しますと、鳥のくちばしとはずいぶん趣が違います。
さて、イカの場合、脚は移動のための器官ではありません。獲物を取ったりするので、むしろ腕と呼ばれる場合もあります。

■イカの眼

さて、脚の付け根の外側の方には、眼があります。イカの視力はわかりませんが、大きさは非常に印象的です。魚屋さんの店先に並んでいる、ヤリイカやスルメイカでも、眼は身体に比べて大きいのですが、身体8m、脚長14mのダイオウイカでは、眼が大型のスイカほど、直径が40cmもあるものが知られています。クジラの眼でもここまでは大きくありません。地球上の生物で、一番大きな眼を持っていると言ってもいいかもしれません。

■イカの脳

さらに、この眼と眼の間に頭があります。つまり、ここを解剖すると脳が出てきます。
最近、まな板の上で解剖した全長40cmほどのスルメイカでは、脳の大きさは眼球よりやや小振りで、ちょうど一口分くらいの大きさでした。印象としては、「けっこう大きいな」という感じでした。
この脳には、神経がつながっていますが、これが神経生理学にはなくてはならない実験材料なのです。「イカの巨大神経」と呼ばれ、単独の神経繊維が種類によっては直径2mmほどもあります。ですから、1本の神経繊維に電極を差し込むことも可能で、神経に関する実験も、この巨大繊維を用いられることが多いのです。ちなみに、人間の脊髄などは非常に太いですが、これは何百何千もの神経繊維が束になってできあがったもので、その神経繊維の1本1本は非常に細く、そこに電極を差し込むのは至難の業です。したがって、イカの神経は地球上で一番太い、と言えそうです。

■イカの呼吸器、消化器

イカのワタの部分を引き抜きますと、非常に単純な消化器系、エラなどの呼吸器系、循環器系の器官が見えます。
これがいわゆる胴の部分に収まっているのです。

■イカの運動

ところで、イカは、脚の方向か、ミミの方向か、どちら向きの泳ぐのでしょうか。結論から言うとどちらの方向にも泳ぎますが、状況によって、どちらの方向に進むかは決まっています。
速度をあげて泳ぐときには、脚の方を後ろにして、身体の中に入れた水をジェット噴射して進みます。回遊をするときや、敵から逃れようとするときには必ずこの向きで泳ぎます。しかし、イカの姿からして、ジェット噴射で進むときには、そもそも前がよく見えません。ですから、水槽などではしばしば壁に衝突して死んでしまうそうで、飼う場合には特別な工夫が必要だそうです。
餌を取るときには、反対に脚の方向に進んでいきます。胴体の先についているミミをヒラヒラ動かして、ゆっくりと獲物に近づき、素早く脚を伸ばして捕まえます。体内に取り込んだ水をジェット噴射するノズルを逆に向けて、進む方向を変えるのです。また、オスがメスに近づくときも、基本的にはこの方向です。

■イカのスミ

イカやタコは敵から逃げる際に、他の動物には見られない特殊な行動として、スミを吐きます。ところで、イカスミはグルメのリストには欠かせない逸品です。かなりの味がついています。イカを追ってきた魚にすれば、スミの中に入ると、突然おいしい味に包まれてしまいます。魚は魚で、口のまわりやヒレにも味を感じる細胞がありますから、本当に味に包まれてしまい、イカを食べたような錯覚に陥るかもしれません。言い換えると、イカのゴーストの中に突っ込んでしまうのです。

■イカの色による表情

奥谷喬司著『イカはしゃべるし空も飛ぶ』より、許可を得て転載

イカには体色を変化させる、という特徴があります。その一例は、コブシメのオスの見せる芸当です。オスのコブシメは、繁殖期になりメスと出会いますと、体色を求愛用に変化させます。しかし、繁殖期にオス同士が出会いますと、互いに黒っぽい威嚇の色を示します。さて、ある真ん中に居るオスの右側にメス、左側にオスがいますと、真ん中のオスは体色を器用に変化させます。メスの側は求愛の色になり、オスのいる側は威嚇の色になるのです。

■イカの特徴のまとめ

ここまでの要点をまとめてみましょう。

  • 餌を取るための運動性に満ちた器官が口の周りにある。
  • 大きな眼をしている。
  • 神経系がよく発達している。動物界で最も太い神経を持っている。
  • 移動の推進力は、水のジェット噴射によっている。しかし噴出口の方向を変えることによって、移動の方向も変えられる。餌を取るときには脚の方向、逃げるときにはミミの方向に泳ぐ。
  • 自らのゴーストともいえるスミを吐く。
  • 身体の色の変化させることによって、非常に繊細な表情を表わす。


さて、感覚器官が集まり、神経系が発達し、表情豊かな部分といったら、人間では、頭に当たります。それでは、口の周りにあって、しなやかに動く器官といったら何でしょうか。それは唇ではないでしょうか。私たちは、唇で食べ物をつかむことができますし、さらには鋭い触覚の器官でもあります。イカの《腕》は発達した唇ではないでしょうか。

この点が決定的です。割烹屋さんの水槽や水族館でイカの泳ぐ様子をよく観察してみてください。《脚と言われるもの》を「唇かもしれない」と思って観察すると、やがて「唇以外の何ものでもない」という確信を得るでしょう。

■移動方向に現れるものは

それでは、移動の方向は何と関係しているでしょうか。
食餌、求愛、といった場合に脚方向に進み、《耳》方向に進むのは逃走のときです。イカにとって好ましいものは、口の方から向かっていき、嫌いなものには、脚を後ろに一目散に逃げます。この動きの方向は、如実に好き・嫌い、つまり共感反感を表わしています。これはあからさまな「表情」ですし、コブシメでは身色でも、非常に豊かに表情を表わします。

■スミはゴースト、つまり像

スミを吐く動物はイカ・タコそしてやはり同じ軟体動物のアメフラシしかいません。そして、イカはスミを吐いて、そこに自らのゴーストをつくると述べました。いわば、実像から虚像をつくるのです。人間も、頭部では実像から虚像をつくってはいないでしょうか。ただしそれは、物質的な意味での虚像ではなく、もっとずっと高次の段階での虚像で、外で見た物体のイメージを頭の中につくっているのです。

■イカは頭部

発達した唇、大きな眼や太い神経、豊かな表情、虚像をつくる行為、そのどれをとっても、人間の頭部、しかも顔の部分を強調すると、イカの姿が生まれてきます。
ただし、頭蓋骨の部分は含まれません。ここでは触れませんが、人間の頭部が固い頭蓋骨で覆われているように、身体全体を固い殻で覆っている動物がいます。しかもそれは、イカやタコと同じ仲間に属します。貝の仲間です。そして、イカ・タコと貝類の中間に位置するのが、オオムガイ(ノーチラス)です。


■タコの特徴

さて、それではタコの特徴はどこにあるでしょうか。タコももちろん基本はイカと同じで、人間の頭部と関連させると、理解できます。しかし、イカとタコを比べると、脚の発達度がまったく違っています。数は少ないものの、脚がずっとよく発達しています。刺し身でも、イカは胴体ですし、タコは脚です。つまり、タコではイカより《唇》が極度に発達しているといっていいでしょう。そして、8本の唇で海底をなめるようにして這いまわっています。
そして、絶えず舐め回すような様子、欲望に満ちた雰囲気が、私たちに下劣な印象となって伝わってくるのかもしれません。

タコは潜在的にノーチラスのような殻を欲しがっています。それゆえ、適切なツボがあると、好んでその中に入り込むのです。